株主還元を積極化 後押ししたのは「JPXプライム150指数」?

最後に株主還元について押さえましょう。

信越化学工業は株主還元を積極化しています。2024年には配当性向で35%としていた配当方針を同40%へ引き上げました。2025年1月の決算説明会では「手持ち現金はこれ以上増やさず」と言及し、冒頭の5000億円の自社株買いにつながります。

背景の1つとして考えられるのが、JPXプライム150指数です。信越化学工業は、2024年3月期の決算説明会で「JPXプライム150にエクイティ・スプレッド(※)基準で構成銘柄になっていることを強く意識」していると話しました。しかし現在、先述のとおり同社の採用理由はPBR基準となっています。

※エクイティ・スプレッド…ROE(自己資本利益率)-株主資本コスト

JPXプライム150指数は、まずエクイティ・スプレッド基準から上位75銘柄を選びます。そして、次にPBR基準で上位75銘柄を選定し、計150銘柄で構成します。

信越化学工業は、算出当初はエクイティ・スプレッド基準で選ばれていたものの、現在はPBR基準での採用です。つまり、エクイティ・スプレッド基準での選考には漏れたということになります。

実は、信越化学工業のROEは低下傾向です。最高益からの減益も理由ですが、利益の蓄積に伴う自己資本の増加が背景にあります。自己資本の増加は健全性に貢献しますが、ROEには低下要因です。2025年3月期は最終増益にもかかわらず、ROEは前期比0.8ポイント悪化の12.0%となりました。これは2023年3月期(同19.7%)を大きく下回る水準です。

この状況が、株主還元の積極化を後押ししたと考えられます。配当金や自社株買いは自己資本を減少させるためです。信越化学工業によると、今回の5000億円の自社株買いはROEを1.5ポイント上昇させます。

株主還元は現金の流出を伴いますが、信越化学工業のバランスシート上の現金は2025年3月末で1兆7000億円と潤沢です。そして、これ以上の積み増しを行わない方針です。余剰の現金のすべてが配当金や自社株買いに向かうわけではありませんが、当面は株主還元に期待できそうです。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)