ドル相場の動向は

過去1カ月のドル円相場も振り返ってみます。4月30日・5月1日に日銀の金融政策決定会合が開催されました。植田総裁は「不確実性が高い」として、利上げには慎重な姿勢を見せました。金融政策決定会合では物価と経済の見通しも下方修正されました。利上げ観測の後退を受け、直後に146円台手前までドル高円安が進みました。ただその後、5月5日週の初めに一時142円台まで下落しています。報道によれば、米国の3月の貿易赤字が関税前の駆け込み輸入により、過去最大を記録したことが理由に挙げられています。ただ、実際にはそうではないでしょう。

5月5日週、ドル安アジア通貨高が進みました。台湾ドルの対ドル相場も過去半年ほど32から33で推移していましたが、5月2日から5日にかけて一気にドル安・台湾ドル高となり、台湾当局がドル買い・台湾ドル売りの介入を行った模様です。日米の関税交渉を控えて円安を牽制されるとの見方から、ドル安円高が進む場面がありましたが、それと同じロジックでドル安・台湾ドル高が進んだとみられます。
台湾も米国から見ると主要な貿易赤字の相手先です。また、香港ドルや韓国ウォンも同様に対ドルで上昇しました。おそらく5月5日週は、アジアとの通商交渉・関税交渉を控えたアジア通貨に対するドルの売り仕掛けがドル円にも波及したと思われます。ただ、台湾当局が5日に「為替は議題になっていない」と発表しています。こうした見方が浸透すれば、アジア通貨に対するドル安は収まっていくと考えられます。
ドル円も一旦142円台まで下落しましたが、下値では底堅さもみられ、その後、FOMCを経て足元では145円台を回復しています。
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後編:【歴史的な規模にまで積みあがった投機筋の円買いポジションはどうなる】では、積みあがった投機筋の円ロングの動向や5月12日週、注目ポイントを紹介する。
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