荒れ果てた部屋

状況への理解が追いつかずに呆ける凛子が横になっているベッドに駆け寄ると同時に、早苗は思わず息を呑んだ。ただならぬ部屋の様子に気がついたからだ。

まずワンルームは、真っ暗だった。遮光カーテンがぴったりと閉じられ、昼間だというのに光が一筋も入っていない。足元には、エナジードリンクの空き缶がいくつも転がっている。コンビニのビニール袋に入ったままの食料品、片づけられていない洗濯物。キッチンには、飲みかけのペットボトルやカップ麺の容器が積み重なっている。

もちろん部屋と同じくらい、その主である凛子の様子も荒れ果てている。毛布から顔を出した凛子は、ぼさぼさの髪にスウェット姿。早苗の顔を見て「お母さん」と小さく呟いたあと、すぐに視線を逸らした。目元に溜まった涙が、ぽろぽろと頬を伝って落ちていった。

「……ごめんなさい……」

早苗は何も言わずに、しゃくりあげる娘の背中をさすった。言葉なんて、この場面には何の意味も持たないだろう。ただ、娘が生きていてくれたことがありがたかった。

やがてしばらく経つと、嗚咽がおさまった凛子はぽつり、ぽつりと話し始めた。

「入社してすぐのころから……ずっと、怒られてばかりだったの。資料の出し方が遅い、言葉遣いがなってない、報連相ができてないって……」

声は小さかったが、言葉のひとつひとつが早苗の胸に突き刺さった。

「私が未熟だからって思ってた。毎日遅くまで残業して、家に帰ってきても仕事して。でも誰にも相談できなくて。眠れない日が続いて、食欲もなくなって……それでも、頑張らなきゃって思ってたの。せっかく就職できたんだし、弱音吐いちゃいけないって……」

凛子は目をぎゅっと閉じた。

「でも……GWが終わった朝、目が覚めたら……体が動かなかった。立ち上がれなくて、スマホも開けなくて……怖くて、誰にも連絡できなかった」