最寄り駅にほど近いスーパーの自動ドアが開いた瞬間、正美は思わず立ち止まった。
仕事帰りの人たちで混み合っている夕暮れの駅前。パート先のホームセンターで立ち仕事をしていた疲れがどっと押し寄せ、早く家に帰ってひと息つきたいと考えていた矢先だった。目の前の歩道に、大学生の息子――大祐の姿が見えたのだ。
「……大祐?」
目を凝らすまでもない。バイト代を貯めて買ったという黒い革ジャンを着て歩く、細身の青年は間違いなく息子だった。
しかし、正美の視線は、すぐに彼の隣へと引き寄せられた。大祐の隣には、腕に軽く触れるように寄り添い、楽しそうに笑い合う若い女性の姿があった。
まさか、とは思った。だが、その距離感と親しげな笑顔を見れば、誰だって察するだろう。ひとり息子に恋人がいるかもしれないという事実がすでに衝撃的だったが、なにより正美を驚かせたのは彼女の容姿だった。
金髪――いや、それだけではない。鮮やかな緑のインナーカラーがちらちらと覗く、派手な髪。耳にはこれでもかと並んだピアス。ピアスはおろか、ヘアカラーの経験すらない正美からすると、息が詰まるような光景だった。
「大祐……すごい偶然じゃない」
正美が反射的に声をかけると、大祐はぎくりと肩を跳ねさせ、慌ててこちらを振り返った。隣にいる彼女も、少し驚いたような顔をして、ぺこりと頭を下げた。今すぐ2人の関係を問い質したくなる衝動を必死で堪え、正美は彼女に会釈を返した。
「母さん……今帰り?」
「そう、パート終わって夕飯の買い物してきたところ」
買い物袋を軽く持ち上げながら、2人に交互に視線を向けると、大祐は観念したように彼女を紹介した。
「……怜奈だよ。こっちは、うちの母親」
「こんにちは、大祐がお世話になってます」
「は、はいっ、こんにちは! 小倉怜奈と言います!」