株主還元方針をわずか8カ月で引き上げ、低PBRに焦り 株価をどう上げる?

最後に冒頭に触れた株主還元の強化について解説します。

青山商事は2024年11月、新しい株主還元方針を公表しました。配当性向70%またはDOE(株主資本配当率)3%のいずれか高い方を採用するものです。また自社株買いは、3年間で最大100億円を実施すると明言しました。

従来は1株あたり配当金に60円の下限を設け、配当性向40%を目途としていました。また自社株買いは具体的な金額に言及していませんでした。これは同年3月に公表したばかりの目標です。

短期間で還元方針を引き上げたのは、株価の低さを懸念したことが理由です。青山商事は市場平均と比べるとPBR(株価純資産倍率)が低く、投資家から評価されていないと判断したようです。

【青山商事と東証プライム市場のPBR(2024年末)】

・青山商事:0.64倍
・プライム市場(総合):1.4倍
・プライム市場(小売業):2.5倍

※純資産は青山商事が2024年3月期、プライム市場が2023年10月期~2024年9月期
※プライム市場は加重平均PBR

出所:青山商事 決算短信、日本取引所グループ その他統計資料

青山商事は、PBRが低いのは株主還元が不足しているためとの認識から、配当を積極化させました。2027年3月期までの配当還元の額を、従来の130億円から200億円以上に引き上げています。

株主還元と同時に業績の成長にも取り組みます。ビジネスウェア事業はオーダースーツおよびECの売上高を拡大させるほか、都市型の新コンセプト店舗の開発も行います。また在庫の圧縮と本部費の削減にも取り組み、より利益を重視した経営へと舵を切ります。この実現に向け、既存事業への成長投資として3年間で300億円を投じます。

さらに新規成長投資として、自社株買いを含め3年間で100億円以上を振り向けます。新規成長投資は新規事業の開発およびM&Aとしており、その財源には保有資産や有利子負債などの活用を計画しています。

青山商事は、PBR 1倍の達成には業績拡大も必須との認識です。株主還元と事業成長の両輪を回し、株式市場での評価につなげたい考えです。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)