もし病気にかかっていたら

詩織のダイエットの先生はもっぱらYouTubeだ。食事による体質改善や、カロリーは低いがおなかいっぱい食べられる料理の作り方などを学んだ。どうやら過激な糖質制限などはあまり効果がないらしかった。1番、体重を減らせるのはやはりカロリー制限。その上で、栄養バランスを考えた三食の食事をすることで、健康的に体重を落とすことができるということだった。

また、食事だけでは劇的なダイエットが難しいことも分かり、早朝にひとまず1時間程度のウオーキングも始めた。

とはいえ、慣れない運動は予想以上にしんどいものだった。だからくじけそうなときは、映画「ロッキー」のテーマソングをかけて自分を奮い立たせた。あそこまで筋骨隆々になれるとは思わないし、なりたくもないが、気分は完全に主人公だった。

さらに、休みの日の朝にウオーキングをすることを自分に課したことは、メリハリのある規則正しい生活を詩織にもたらした。規則正しい生活を送ることはダイエットに効果的なだけではなく、毎日の充実感にも貢献した。

これまでダイエットのダの字も考えてこなかった詩織の努力は思いのほか早く実を結び、鏡の前に立つ詩織のおなかや腰回りは心なしかシュッとしたような気にもなった。

そうしてダイエット生活を始めて、5カ月が過ぎたころ、詩織は指示されていた病院での再検査を受けた。

結果は、問題なし。BMIも中性脂肪も正常値に戻すことができていた。医者もしっかりと食事制限と運動をした効果だと褒めてくれた。

詩織は検査結果を握りしめ、その足で家電量販店に向かった。目的はひとつ。以前から欲しかったホームシアター用のプロジェクターを13万円で購入すること。

もし糖尿病にかかっていたら、もし脳梗塞になっていたら、決して安くない治療費がかかっていたことだろう。しかし詩織は健康のために食事と生活を改善した。それはつまり、かかるかもしれなかった治療費が節約できたということだ。

健康はコスパがいい。

詩織ははやる気持ちを抑えながら車を運転し、家に帰る。最初に見る映画はどんな映画がいいだろうか。やっぱり自分のダイエット生活を支えてくれた「ロッキー」シリーズだろうか。そういえば最近、詩織の好きな監督の新作が配信開始されていたから、それでもいい。

ただできれば、おいしそうに食事をするシーンがない映画がいいなと思った。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。