壁全体に広がった黒い影
俊彦を午後から学校へ送り出した安美は、家に戻るとまず家族3人分の寝具に布団乾燥機をかけた。それから一念発起して家中の掃除へと取り掛かった。カーペットの下やクローゼットの奥、ベッドの隙間を丁寧に掃除していく中で、安美がふと気になったのはリビングにある大きな本棚だ。ほこりくらいは払っていたが、家を建てて以来、本がぎっしりと詰まっている本棚をどかした記憶がない。安美はここまでやったのだから徹底的にと、本棚の裏も掃除することにした。本をいったんどかして、やっとの思いで重い本棚を動かす。そこに見えた光景に安美は思わず悲鳴をあげた。
なんと本棚の裏には黒いカビが生えていた。壁全体にびっしりと広がる黒い影に、安美は殴られたようなショックを受けた。大量の湿気を吸い込んだ壁は、薄暗い本棚の影で着実にカビを育て続けていたのだ。
「どうしよう……こんなのどうすればいいの……」
安美は真っ黒な壁の前で立ち尽くすしかなく、その不気味な色合いに思わず身震いをした。
●壁全体を覆っていた黒カビ、息子の発疹、前途多難な安美の解決策は……? 後編【「こんなになるまで気付かなかったなんて」自分のせいで家が傷み息子も病院へ…自責の念にかられる妻に夫がかけた「予想外の言葉」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。