自社商品が大ヒットするよりうれしいこと
一方、営業は自社の投信を販売会社に採用してもらい、積極的に売ってもらうよう働きかけるのが主な仕事です。「販売会社は投資家と直に接しているので、販売の現場で何が起こっているのか情報収集しながら、本部や販売担当の皆さんを巻き込んで数字を積み重ねていきます」(村井さん)。投資家に商品の魅力やリスク、相場環境などを説明するセミナーを販売会社と共同で開催することもあるそうです。
金融商品の販売というと、やや強引な営業をイメージする人も少なくないかもしれません。けれども、「今は商品の魅力、顧客のニーズに沿って販売するのが当たり前になってきていて、業界が劇的に健全化したと感じますね」と村井さん。
以前の記事でも触れた通り、運用会社は専門家が多いだけにアカデミックな雰囲気もあり、それが「とっつきにくい」と感じられることも。難しそうに見える運用会社と外部とを結ぶ役割も、営業は担っていると村井さんは話します。
マーケティングや営業の担当者は、やはり商品を大ヒットさせることを究極的な目標としているのでしょうか。「もちろんそれもありますが、私が一番うれしいのはちょっと違う」と川島さん。「設定直後に爆発的に売れたものの、あっという間に投資家にそっぽを向かれて解約の嵐。結果的に繰上償還という経験をしたこともありますが、もうこりごりですね。それよりも、良いと信じた商品をマーケティングで磨き上げ、その魅力がじわじわ伝わっていき、少しずつ資産が積み上がっていくのを見ているとき、最もやりがいを感じます」。
少し時間がかかってもファン層を広げ、ロングセラ―の商品に育てていくことが、会社からも評価されるようになってきているそうです。
運用会社の営業に「ノルマ」はあるのか?
一方で、販売会社や投資家の反応が悪いときは、「精神的につらい」と二人は声をそろえます。「自社の投信は私たちにとって可愛い子供のようなもの。苦労して生み、育てた子供が評価されないのは、運用会社の社員ならだれもが経験することではあっても、やはり切ないですね」(川島さん)。
投資信託の売れ行きは相場環境にも大きく左右されるので、どんなに良い商品でも販売してみないとわからないという側面もあります。家電製品などの消費財のように、売れ行きを予測するのはほぼ不可能だと言えそうです。
その半面、厳しい「ノルマ」を課されることはありません。「成果が出るまでには3か月から半年ぐらいはかかりますから、今日頑張って明日成果が出るわけではないことは経営陣も分かっています。それでも、目標となる数字はあるので、毎日出てくる販売と解約の数字に一喜一憂するなというのも難しく、そこはつらいところです」(村井さん)。
運用会社の営業、マーケティングの仕事は自分たちが直接販売するわけではないだけに、ノルマ営業がない一方で、ストーリーや戦略をしっかり構築し、販売会社をはじめとする他者をいかに巻き込めるのかが求められるようです。すぐに結果が出ないと気が済まないという人にはあまり向かない半面、計画的にじっくり取り組むことが好きという人には、ぴったりの職場かもしれません。
運用会社には、この他にもさまざまな職種がありますが、投資信託という商品が多くの人の想いに支えされているのは間違いありません。金融業界の中でもポテンシャルが大きいのも確かですから、興味のある方にとっては、非常に魅力的な職場だと言っていいでしょう。