DNCAインベストメンツ
副CIO兼ポートフォリオマネジャー
フランソワ・コレット氏
 

――はじめに2024年の世界経済・市場を振り返っていただけますか。

2024年の世界経済、とりわけ米国経済は年初の予想に反して力強いものとなりました。米国経済が強かった主な要因としては、移民を中心とした労働力の供給による労働市場の改善と、生産性の向上が挙げられるでしょう。

また現在、中国がデフレを「輸出」しているような状況になっているわけですが、それによる輸入価格の押し下げも、米国の個人消費にとってサポーティブな材料になりました。

結果として足元の米国経済は3%近いGDP成長率となっていますが、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げサイクルに転換したことと、トランプ政権誕生による企業の「アニマルスピリット」への期待から、2025年も引き続き比較的底堅く推移するでしょう。インフレに関しては2.5%程度に落ち着くと見ています。

――2025年も底堅く推移……とのことですが、トランプ政権の誕生によって、移民政策や中国への関税政策が景気に水を差すことにはならないか気になります。

たしかに、トランプ氏が大統領選挙期間中に掲げていた政策がそのまま実行されてしまうと、景気後退、さらにはスタグフレーションに陥ってしまうリスクもあります。

ただしFRBの政策を見ると、物価の安定よりも雇用の安定をやや重視している印象もあり、緩和的な金融政策を続けていくことが景気の下支えになるとの見方もできるでしょう。実際、前回のトランプ政権時に中国に対する関税引き上げを導入した時にも、2019年にFRBが政策金利を引き下げたことで、実体経済の落ち込みが抑えられたこともありました。

リスクシナリオとしてはパウエルFRB議長が独立性を主張し、インフレ対応のために利上げに転じることではないでしょうか。しかしその場合は、トランプ氏が黙っているとは思えませんから……基本的には緩和的な金融政策が実体経済のマイナスを打ち消すと見ています。

――そんな中で、2025年の債券市場をどうご覧になっていますか。

米国債については過去数年、投資家は失望を受けてきたわけですが、2025年に関しても様子見を継続することになると思います。物価連動債以外は厳しいと見ています。

債券投資が正当化されるには、市場が想定する以上に政策金利が引き下げられること、さらにタームプレミアムが投資に見合う水準に拡大することが条件です。ただ、そこに至るには一旦債券価格が下がることになりますので、債券投資家にとっては厳しい局面になる可能性もあります。

一方、日本国債は日銀が利上げするとしてもイールドカーブは十分魅力的な水準ですので、リスク対比のリターンが非常に魅力的と言えるでしょう。

新興国債券は総じて魅力度は低いものの、中には米国債より魅力的なものも散見されます。リスク対比のスプレッドがきちんと乗っている、東欧諸国や南アフリカ、ブラジルといったあたりがその一例です。

――最後に日本の投資家へのメッセージをお願いします。

政策金利が引き下げられるタイミングで、「金利が下がるのだから債券を買いましょう」といった話もよく耳にしますが、一歩引いて冷静に考えていただきたいです。

足元の新興国の現地通貨建て債券市場がそうであるように、中央銀行が利下げを行っても長期金利が下がらず、リターンとしてはマイナスになった国も結構ありました。「利下げ=買い」といった単純な思考に陥らないことが大切です。