かつては学生の就職先人気ランキング上位の常連だった金融業界ですが、今はメガバンクですらその人気が凋落傾向にあります。そんな金融業界の中でも、1800兆円を超える個人金融資産というポテンシャルを有する資産運用業界は成長産業になる可能性があり、運用会社はその主役であると言ってもいいでしょう。

運用会社で働く現役社員への取材を通じ、実態をリポートするシリーズ企画。最終回はマーケティング・営業編です。

取材に協力してくれた皆さん(いずれも国内大手運用会社勤務、仮名)

マーケティング担当・川島さん(40代男性)、営業担当・村井さん(50代男性)

投信のマーケティングは「ストーリーを作る」仕事

投資信託も「商品」である以上、販売戦略を立てるマーケティングや営業担当者の役割は重要です。

マーケティングを担当する川島さんは、その仕事をこう説明します。「投資信託のマーケティングは、一言で言うと商品のストーリーを作る仕事です。運用会社は直販をしていない限り、投資家に直接販売することができないので、まずは販売会社である銀行や商品会社などに取扱商品として採用してもらう必要があります。そのためには、『この商品を売りたい』『お客さまに届けたい』と販売会社の皆さんに思ってもらい、投資家の皆さんにも『この商品に投資したい』と思ってもらえるためのストーリーを描き、それを分かりやすく伝える資料を作ったり、PR戦略を練ったりするわけです」。

川島さん(仮名)

マーケティングと営業の双方の経験を持つ村井さんも、投資信託の販売におけるストーリーの重要性を強調します。「投資というと無機質なイメージもありますが、大切なお金をどこに投資するかは人の価値観をダイレクトに反映するもの。投資家は儲かれば何でもいいと考えているわけではなく、こういう商品に投じたい、こんな人に任せたいといった思いをそれぞれが持っています。だからこそ、似たような投資信託がたくさんある中で、商品が持つ運用方針やその背景にある信念に共感してもらうことが必要になるのです」。

村井さん(仮名)

商品が持つストーリーを理解し、共感することで、投資家は長く投資を続けてくれ、追加資金も投じてくれます。こうした「ファン」に支えられた投信は資金の流出が少なく、むしろ継続的に流入するので安定した運用が可能になり、運用会社、販売会社、そして投資家に「三方良し」という結果につながるのだそうです。

川島さんはファンドマネジャーのサポート業務やエコノミストの経験もあるそうですが、運用の世界を取り巻く幅広い経験が、今のマーケティング業務でも活きていると言います。村井さんも、「マーケティングには商品開発や営業の素養も必須」と指摘します。深い商品理解に加え、販売会社と投資家の双方のニーズにも敏感でなければならないからです。