義母からの言葉

販売開始から1カ月がたった。

「これ見て。4万5000円振り込まれてたよ」

〈コメ農家の自家製みそせん〉は1箱20枚入りで2000円。先月の売り上げは25箱だった。売り上げから手数料などを抜いた金額がこれだった。

禮司は通帳を確認して、目を丸くする。

「へえ、大したもんだな」

「米の不作を補うのには全然だけど、初月としてはかなり良い方だと思う。今は農協を通しての販売だけど、ちょっと勉強してみて、通販で私たちからの直販もできないか考えてみる」

「いいね。なあ、母さん。初めて良かっただろ?」

話を聞いていた初江はこんなに売れると思ってなかったのだろう。通帳を凝視しながらつぶやく。

「……昌子さん、あなたすごいのね」

初江の褒め言葉に昌子は素直にうれしくなったが、朗らかに笑いつつも首を横に振った。

「私はすごくないですよ。だってこれはお義父(とう)さんの作ったせんべいとお義母(かあ)さんの作ったおみそで作ったものなんですから。一番の功労者はおふたりです」

昌子はそう言って、〈コメ農家の自家製みそせん〉を初江に手渡す。

「まだまだこれからだよ。不作で苦しいのは変わっちゃいないんだ。昌子さんも、みそせんにかまけて農作業をおろそかにされちゃ困るんだよ」

初江はぶっきらぼうに言って、みそせんを頰張った。

軽やかな音が響く。

「分かってます。農作業も頑張りますよ」

荻原家にはもう、重くよどんだ空気はなくなっていた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。