コメ農家の自家製みそせん
昌子は家に余っていたくず米を使って、さっそくせんべい作りを始めた。炊いた米を薄く平らにつぶしてオーブンで焼く。こんがりと焼かれたせんべいは素で食べても甘みがあっておいしいが、みそを塗ればまさに鬼に金棒だと確信した。昌子はみそダレのレシピを研究し、みそ本来の味わいを生かすための試行錯誤を繰り返した。発案から1カ月半、納得のできるみそせんべいを完成した。
完成したみそせんべいは当然、初江に試食をしてもらった。これが最初の関門だった。
初江がせんべいをかじると、バリっと小気味のいい音がなる。目を閉じながらせんべいを味わい、緑茶をひと口飲んだあとに、初江は真っすぐに昌子を見る。
「……本当にくず米なんだね?」
「はい、もちろんです」
「……じゃあ、いいんじゃない」
初江からお許しが出た瞬間、体から力が抜け落ちた。禮司にも食べさせたが、禮司は売れると太鼓判を押してくれた。
そこからは怒濤(どとう)だった。昌子はすぐに農協が運営している通販サイトへの掲載を目指し、地元の農協へと〈コメ農家の自家製みそせん〉を持ち込んだ。長いお付き合いがあるということで、掲載はすぐに認めてもらうことができた。せんべいを送る上で、包装などについては、昌子がダメ元で結婚前に勤めていた職場のつてを頼ってみると、運よく業者を紹介してもらえたので、そこにお願いすることにした。
それだけでは足りないと思い、昌子はInstagramを開設し、〈コメ農家の自家製みそせん〉の広告活動を始めた。何もかもが手探りだったが、着実に何かが変わっていっている予感があった。