火葬を行うのは、どこの自治体か

死亡届が出された場合、火葬はどうなるのでしょうか。

身寄りのない人が亡くなった場合、自治体は戸籍などをたどって親族を探します。親族が見つからなかったり、見つかっても関わりを拒んだりした場合、多くのケースでは自治体が火葬を行うことになります。

ここで問題になるのが、「火葬を行うのは、どこの自治体なのか」です。

自治体が火葬を行う根拠となっているのは「行旅病人及および行旅死亡人取扱法」および「墓地埋葬法」です。

ご遺体をそのままにしておくことはできないため、原則として亡くなった場所の自治体が火葬を行うことになっているのです。

昔は家族や親族が葬儀を行って遺骨を引き取るのが当然であり、「引き取り手がいない」という事態を考える必要はさほどなかったのかもしれません。しかし、独居高齢者が増えて、死後に引き取り手のないケースが増加傾向にあることを考えると、現在の法律には不備があるといわざるをえません。

たとえば「老後ひとり難民」が倒れ、居住地の隣の市町村にある病院に運び込まれたとしましょう。そのまま亡くなった場合、住民税を納めていた自治体ではなく、隣の自治体が火葬を担うことになります。

このように考えると、「それはさすがにおかしいのでは」と思う方も多いのではないでしょうか。

「老後ひとり難民」が亡くなった場合については、各自治体がローカル・ルールで対応していることは、すでに述べたとおりです。担当する部署も、生活保護担当であったり、高齢者福祉担当であったりとまちまちです。

たとえば「どこまで時間をかけて親族を探すか」は、自治体ごとに差があるのです。のちのち親族が現れ、「なぜ勝手に火葬したのか」と問題になるリスクを重く見る自治体では、なかなか火葬に踏み切れないケースもあります。

その結果、遺体が長期間保管されたままになって傷んでしまったり、ときにはニュースになって世間を騒がせたりもします。

名古屋市では、2022年、2023年と続けて「引き取り手のない遺体の放置」が報道されました。最長だったケースでは、葬儀社の保冷施設に3年4カ月にわたり、遺体が保管されていたといいます。

行旅死亡人の火葬後の遺骨の扱いも、法律上の規定はありません。このため、自治体によって対応はさまざまです。しばらく保管しておいて、引き取り手が現れない場合は、自治体が管理する無縁墓等に合祀するというのが一般的ですが、保管場所や保管しておくべき期間などには決まりはないのです。

遺骨の埋葬についてルールが決められていない自治体では、ロッカーなどにしまわれたままになっているといったケースさえあります。

●第3回は【相続人不在の財産は年800億円。一大マーケットとなった “遺贈ビジネス”の功罪】です(9月6日に配信予定)。

老後ひとり難民

 

著書 沢村香苗

出版社 幻冬舎

定価 990円(税込)