実際に売却を考えてみると、慌てても仕方がない

暴落を前にして慌てないほうがいい理由には、実は「慌てても仕方がない」という現実があります。

投資信託の売買は、株式のように即時の取引ができません。投信の値段である「基準価額」は、1日1回公表されますが、取引の値段が前もってはわかりません。つまり、いま見ている基準価額が安いから買いたい、と思っても、そのとおりの基準価額で買うことはできませんし、逆も同様です。

投資信託は、約定日の基準価額で注文が成立しますが、一般に、国内資産の場合は申込日が約定日、海外資産の場合は申込日の翌日が約定日です。

DC制度の場合は、より日数がかかります。例えば、外国株式型投資信託を売って、定期預金を購入するスイッチングを例に見てみます(※)。

〈外国株式型投資信託の売却〉
8月13日22時(申込)→8月14日(発注日)→8月15日(約定日)
〈定期預金の購入〉
8月20日(発注日)→8月21日(約定日)

発注から約定まで6営業日かかることになります。6営業日あると、予期せぬ高騰も想定されるため、購入の中止をする機能もあります。

次に、定期預金を売って、バランス型投資信託を購入するスイッチングの例ではどうでしょうか。

〈定期預金の売却〉
8月13日22時(申込)→8月14日(発注日)→8月15日(約定日)
〈バランス型投資信託の購入〉
8月16日(発注日)→8月19日(約定日)

このパターンでは必要な日数は4営業日に短縮されますが、それでも相当時間がかかっています。

※記録関連運営管理機関がJIS&Tの場合

NISAの利用者数は2024年3月末で2300万口座です。18歳以上の成人年齢人口は1億720万人(2022年10月)ですから、4人にひとりがNISA口座を保有していることになります。

DCの加入者・運用指図者を合わせた人数(企業型・個人型)は1211万人で、成人年齢人口の10人にひとりの割合です。

NISAもDCも長期・分散・積立投資が実践できる仕組みですが、長期投資の間には、市場の上げ下げが必ず発生します。NISAつみたて投資枠を始めて間もない投資家が、8月初旬の値動きを体験できたことは、長期投資における市場の上げ下げを早い段階で知ることができたという意味で、見方によっては幸運だったのかもしれません。