男性は本妻と離婚しないまま帰らぬ人に

奥さんは都内の彼名義のマンションに社会人の娘さんと一緒に暮らしていました。家を出た時点でマンションの住宅ローンは完済していて、まとまったお金を渡した上で生活費として毎月30万円を振り込んでいると聞きました。

専業主婦の奥さんが働きに出た様子はなく、娘さんの学費や短期留学の費用も全額彼が負担していました。彼は来春定年を迎える予定で、それを機に奥さんに離婚と生活費の減額を迫るつもりだと話していたのです。

そんな矢先、彼が突然体調を崩し、救急車で運ばれた病院で息を引き取りました。急性心疾患でした。

高血圧の持病があり、減塩食やウォーキングなどを心がけ健康には留意していたつもりだったので、まさかこんなに早く逝ってしまうとは想像もしませんでした。彼のことは思春期の私の息子も慕っていて、突然の死に大きなショックを受けたようでした。

しかし、悪夢のような日々が始まったのはそれからです。

戸籍上の妻子に知らせないわけにはいきませんから病院から連絡を入れると、奥さんは涙で声を詰まらせた私に「葬儀や埋葬はこちらでやりますから」と冷たく言い放ちました。

彼の亡きがらは奥さんが手配した葬儀社に持っていかれ、その後は葬儀場さえ教えてもらえませんでした。息子も「どうして僕たちはお父さんのお葬式に行けないの」と納得できないそぶりでした。

そして、彼の相続の手続きも私たちの手の届かないところで粛々と進められていたようです。

いまさらですが、それは分かりきっていたことでした。彼自身が生前、「妻と離婚できないと、僕に何かあった時には財産の一切合切を妻と娘に持っていかれることになる」という不安を口にしていたからです。

仕事柄相続の知識を多少持っていた彼は、将来的には遺言書を作成することで私にいくばくかのお金を残すことを考えていたようです。しかし、まさか自分がこんなに早く亡くなるとは考えてもいなかったのでしょう。