息子の帰省

駅に着くと、駐車場の前で俊介が待っていた。

家を離れて4カ月しかたっていないのに、とても久しぶりに会ったような不思議な気持ちになる。

「お帰り」

助手席に乗り込んだ俊介に声をかけると、俊介は照れくさそうに、ただいま、と応えた。

「何日くらい、居られるの?」

「3日くらいは居られると思うよ」

俊介の答えを聞きながら、春子は車を発進させる。

「それじゃ、どっかに遠出でもしたら良かったね? 今からでもどっか温泉とか行くっていうのもあるけど?」

「いや、いいよ。仕事で疲れているから、家でゆっくりしたい。それに、犬を飼ったんだろ? その犬と遊びたいし」

「ムギね。うん、その子はとってもかわいいんだけどね……」

「すごい暴れん坊とか?」

「いや、そうじゃないの。ちょっとね」

春子の歯切れの悪い物言いを、俊介は訝(いぶか)しんでいたが、それ以上は何も訪ねてこないまま家に到着した。

荷物を持って俊介は真っ先にリビングに向かう。するとムギがすぐに俊介に近づいていく。ムギは散歩に出てもすぐよその犬にほえてしまうような、少し臆病なところがある性格だったが、俊介のことはずっと一緒に生活をしていたかのように頭を足にすりつけた。

「うわぁ、かわいいな~。ムギ、初めまして~」

俊介は頰を緩ませて、ムギと戯れていた。春子がそんな俊介とムギの様子をほほ笑ましく眺めていると、利也がやってくる。最近は書斎に閉じこもっているが、俊介がいるので出てきたのだろう。

「俊介、お帰り」

「うん、ただいま」

春子は利也に気付かない振りをして、台所でお菓子の準備をしていた。利也もそれだけ告げて書斎に戻ろうとすると、俊介が呼び止めた。

「待って。なんかあったんだよね? けんか?」

春子も利也も俊介の勘の鋭さに驚く。俊介は返事も聞かず、春子たちをソファに座らせて、2人の前に立った。

「原因は何? 何があったの?」

少しの沈黙のあと、最初に口を開いたのは利也だった。

「ムギを飼っただろ。それで家で毎日クーラーをつけっぱなしにしていたんだよ。電気代が掛かるようになって、そのことを注意したんだ」

すかさず春子は反論をする。

「お金がかかるのは分かるけど、ムギのためじゃない。この子は暑い中、部屋にいると干上がっちゃうでしょ? それでもめちゃって……」

俊介は口をへの字にして2人の話を聞いていた。

「俺だってあんまり金のことでとやかく言いたくはないよ。でも、さすがにこれは、高すぎると思わないか?」

「私だって別にいいでしょなんて開き直ってるつもりはない。でも、ムギのためなら仕方ないと思ってね」

「ちょっと、待ってくれよ」

俊介は頭を抑える。

「何、どうかしたの?」

「……ちょっと俺の部屋に来て」