妻ではなく365日無休の奴隷

シャワーを浴びて寝室に向かうと、ベッドに寝転んだ新吾はスマホでゲームをしていた。

「あのね、週末ちょっと実家に帰ろうと思ってるの」

「は? なんで?」

新吾はスマホから顔すら上げず、刃物のような言葉だけを投げつける。

「……お父さんの体調があんまり良くないって連絡があったのよ。それで見舞いがてら顔を見に来ないって言われて」

「良くないってどれくらい? 病気なの?」

「いや、病気ってほどじゃないんだけど……」

胸の内側で心臓が暴れ出す。気道が詰まるような感覚があり、息の仕方が突然分からなくなる。言葉に詰まる薫に、新吾はため息を吐く。

「……まあいいけどさ、美緒たちはどうするつもり?」

「美緒たちも連れていくよ。お父さん、孫の顔も見たいだろうし」

「家事はどうすんの? まさかやんないの?」

もう何も言えなかった。どうして新吾が休む週末に私が休むことは許されないんだろうか。私は365日無休で、奴隷のように働き続けなければいけないんだろうか。心のなかで感情が渦巻いて、言葉をのみ込んでいった。

「あのさ、普段家でのんびりをしてるんだからさ、せめて毎日家事くらいはしてくれって。俺、そんな難しいこと要求してるかな? 家事をしてくれとしか、薫には求めてないだろ? 頼むよ、よほどの急病なら俺だって止めたりしないけどさ。俺の稼ぎで暮らしてるんだから、そのサポートはしてくれよ」

たしかに専業主婦の薫の暮らしは、新吾の稼ぎで成り立っている。それは紛れもない事実で、変えようのない現実だった。

「分かった。変なこと言ってごめんね」

うつむく薫の目と鼻の先で、新吾は寝がえりを打って背を向けた。