<前編のあらすじ>

広告代理店でバリバリ働いている吉田智子(45歳)は、独身のまま老後を迎える準備を始めていた。ただ、「あいまいなこと」が嫌いな智子にとって、購入や解約時にあらかじめ価格が確定していない投資信託の売買は、何かスッキリしないものだった。特に海外資産に投資する投資信託の場合、注文時と約定までのタイムラグが気になった。まして、為替相場の変動が大きくなっている時、1日、2日のずれが大きな為替差損につながることもあり……。

●前編:投資信託は「すし屋で時価で注文」するようなもの? 独身女性が新NISAに感じる「モヤモヤの正体」

 

婚活は卒業したはずの自分に訪れた転機

その日、谷川雄太(36歳)は歓喜で爆発していた。吉田智子(45歳)のチームの切り込み隊長として多くの案件でリーダーを務めていたが、その日の案件は特別だった。契約金額の大きさもそうだったが、これまで取引実績のない会社であったし、さらに、業界で最大手だった。競合していたのは、広告業界大手のD社とT社。その最終プレゼンテーションで勝って、契約を獲得することができたのだった。チームで行った祝勝会が終わった後も、谷川は智子を捕まえて、「今日はとことん付き合ってください。昨夜の吉田さんの修正が決め手でした。ホント、何て素晴らしい上司、なんと頼りになるリーダー! 僕は、ずっと吉田さんについていきますから」と言って、智子を抱きかかえるようにして行きつけのスナックに引きずっていった。

谷川が智子を連れて行ったのは、谷川が常連にしているスナックだった。打ち上げの後で智子も何度か来たことがある店だ。ただ、いつもは吉本とか亀田といった谷川とつるんでいるメンバーが一緒だったが、この日、吉本らは何度も続いた乾杯で酔いつぶれてしまい、その店にたどり着いたのは2人きりだった。智子は、席に落ち着くと「谷川君と2人で飲むのは初めてだったかな」とぼんやりと思った。

谷川は、智子と向かい合って座ると、ふうっと息をついて落ち着きを取り戻した後で、「吉田さん、こんなことを後輩の僕が言い出すのは身の程知らずなのですが、僕と結婚してください」と切り出した。智子は驚いて、「は?」と言ったきり、言葉が継げなかった。「僕は、吉田さんのチームに入って5年くらいですが、いつも吉田さんのサポートに助けられました。今回の件も、吉田さんのサポートがなければ絶対に獲得できなかった。今の僕があるのは、吉田さんのおかげなんです。吉田さんと一緒なら、きっと何もかもうまくいく。だから、僕は吉田さんと人生のパートナーとしてずっと一緒にいたいんです」と谷川は、自分の思いをぶつけるように言った。