一緒ならば何もかもうまくいく
智子は、谷川の言葉を聞いていると少し冷静になれた。「谷川君の気持ちはうれしいけど。私はこれまで、谷川君のことを恋愛の対象としてみたことないのよ。私の方が10歳は年上だし、こんなおばあちゃんを嫁だとかいって紹介したら谷川君のご両親もびっくりするでしょう。それに、私はもう45だよ。子どもを産めない年齢になったんだ。だから、結婚とか家族をつくるとか、私は卒業したつもりでいるの」と淡々と語り聞かせた。その智子の言葉を聞くと谷川は、「これから、僕をそういう目でみてもらえませんか。すぐに返事をほしいというのではないんです。まずは、結婚を前提としてお付き合いをしていただけませんか? 両親のことは大丈夫です。たいていは、僕の意思を尊重してくれるので。それから、子どものことは、授かりものですから。芸能人で50歳近くになって妊娠したという女性もいるじゃないですか。いえ、決して妊活をしようということではないんです。自然に任せて、できたらいいなというか。あの、吉田さんは子どもは好きですか?」。「いや、まあ。いればかわいいと思うけど。けど、あなた本気なの?」。「はい」と笑った谷川の顔が、少年のようで、智子はどぎまぎしてしまった。
そんなことがあって、週末は智子と谷川は一緒に過ごすことが多くなっていった。いつまでも周りに内緒というわけにはいかない。もし、結婚ということになると、夫婦で同じチームにいるということもできないだろう。智子は営業チームを辞して制作チームに異動することを願い出ようと考えていた。サブリーダーの吉本は、もう十分にリーダーを務めることができるし、制作チームを引き受けてほしいという話は以前からあった。智子がそんなことを考え始めたのは、付き合ってみると、谷川との相性がいいことを実感したためだ。10歳の年齢差が気にならなくなってきた。谷川が言っていた「一緒なら何もかもうまくいく」というのは、本当にそうなのかもしれないと思った。