投資歴10年、自己責任の資産形成は当たり前
谷川からの電話を切った後、智子は、思い出したようにスマホで証券会社のアプリを開いて、現在の資産状況をチェックした。できるだけきめ細かくチェックして現状を把握しようと考えているのだが、普段は疲れていてなかなか思うように資産管理ができなかった。この時のように、仕事に一区切りがついたような時に、資産管理を思い出すことが多かった。智子は、「これから1人で生きていくことを考えると、やはり資産を確保することが大事」と思っていた。身もふたもないようだが、やはり、「世の中は金の力でどうにでもなる」という現実は動かしがたいと感じていた。そして、今年から新NISAが始まるなど、世の中は一昔前の「自己責任」の掛け声の下で、自らの才覚と努力で資産づくりをすることこそが正義という時代になってきた。智子の投資歴は10年近くになるが、株式の配当や投資信託の分配金から上納金のように20%が課税されることが理不尽に感じられていた。
「そもそも、配当にしろ、分配金にしろ、私たちがリスクを取って得ているものだから、そのリスクの対価から税金を取るという考え方はおかしいのじゃない」というのは、最近になって投資を始めた谷川らと、たまに投資の話になった時などに智子が言った言葉だった。既に、旧NISAの600万円の非課税枠は使い切っていたので、課税口座にある資金を新NISAの年間非課税投資枠の360万円に計画的に移していくことが、当面の智子の投資行動だった。毎月の積立投資の資金は「つみたて投資枠」で毎月10万円を、米国株インデックスとインド株インデックスに5万円ずつ投資し、課税口座で売却した資金を「成長投資枠」に振り替えるという作業をしていた。最初は、「成長投資枠」で何を買おうかと、いろいろと考えていたが、だんだん考えるのが面倒になって、あるネットニュースで取り上げられていた資金流入額が多いファンドの中で、海外株式を主たる投資対象としているファンドに投資することにした。人気があるファンドには、それだけ期待も大きいということであろうし、過去10年の経験から投資するなら海外の株式が、1番リターンが大きいと感じていたからだ。