家族の幸せの象徴となるはずだったマンション

新築のこのマンションを内覧した私たちは、近未来に舞い込んだかのようなロビーや居室の空間、最先端の設備にすっかり魅せられてしまった。熱に浮かされたような状態で購入を即決した。ここに比べると、どのマンションも安普請に見えた。

 

眺望を考えると中高層階の部屋が良かったが、私たちの懐具合で買えるのは15階が限界だった。それでも販売価格は8000万円。両方の親から200万円ずつ援助してもらい自己資金と合わせて前金が1000万円、さらに35年ローンで7000万円を借り入れた。

利用した10年固定ローンは当時、金利が1.5%だった。2年後には金利の見直しが予定されている。

返済額が1万~2万円アップしただけで、たちまち我が家の家計はパンクする。2年後は長男も高校生、授業料は無償化されても、それなりに教育費の負担も増えているはずだ。夫の昇給に期待できない以上、土日もパートを入れるしかないだろう。

先のことを考えると不安で堪らなくなる。私たち一家の幸福の象徴になるはずだったこのマンションの負債が諸悪の根源になっているのだから、悪い冗談としか思えない。

だだっ広いリビングに1人でいると、マイナス思考の沼に引き込まれていく。下の公園できれいな空気でも吸ってこようと、家着のままカードキーを手に取った。外に出ると、隣の釆澤さんの奥さんと出くわした。外出から戻ったところらしい。

美容院の帰りだろうか、一昨日見かけた時と髪の長さも色も違う。釆澤さんは韓流ガールズグループのボーカルに面差しが似た長身の美人だが、取りすました感じで、何となくいけ好かない。