周囲の意見を聞いて揺らぐ天城さんの考え

酒屋の小田切は来年40歳になる長男に店を任せて気軽な隠居生活を送っていて、月額4万5000円ほどの国民年金で趣味の撮影旅行を楽しんでいます。

受給を5年間繰り上げたことで支給額は3割ほど減ってしまったそうですが、小田切に言わせると、「年金出るまで待っている間に足腰を悪くしたり寝たきりになったりして、せっかくもらったお金が好きなように使えなかったら悔しいだろ? 俺たちくらいの年齢になると急に亡くなるやつもいる。もらえるものはさっさともらった方がいいんだよ」とのことでした。

家に帰って小田切の話を妻に聞かせたら、妻も、「それはそうよ。うちの姉だって、たんまり年金を受け取れるはずが1円ももらわないうちに亡くなってしまったし」と同調します。

義姉は学校の教師をしていましたが、定年を待たず、57歳で病死しました。義兄も教師で2人の子供がいましたが、その時点で成人していたため、遺族年金のようなものもろくすっぽ受け取れなかったと言います。

私自身はもう2~3年は小遣い稼ぎ程度に働いて、その間は年金を受給せずに繰り下げで受給額を増やしておくことを考えていました。

書店で手に取った年金の解説本には、1カ月繰り下げるごとに0.7%、1年ならなんと8.4%も受給額が増えると書いてありました。金利が上がってきているとは言え、今どき、そんな高利回りの預貯金などありません。

会社の同期と話していても、私のように「働けるうちは働いて、その間は年金を繰り下げておく」が多数派でした。それを妻に言うと、次のように反論されました。

「あなたの言っているのは机上の空論でしょ? 年金は貯金じゃないんだから、確実に受け取れるとは限らないじゃない。仮にお義父さんが亡くなった76歳まで生きるとしたら、全部の受取額ではどっちが有利になるのか、考えてみなさいよ」

地方の商家で育った妻は徹底した現実主義者です。これまでも車や家など大きな買い物をする際は、冷静にそろばんをはじいて実に的確な指摘をしてくれました。子供たちも皮肉を込めて、「どっちが家長か分からないよね」と言うほどです。