リビングでの何気ない時間
それから篤史は退院をし、余っていた有休を使い自宅療養をすることになる。そこでも上司がかなり渋い反応をしたことを話すと、千穂はとても怒っていた。
とはいえ、しばらくは仕事をする必要がなくなる。そのことでかなり心の余裕を持つことができるようになった。
とはいえ、このままで良いわけがない。篤史は職場に復帰するか、転職をするかその二択に悩まされることになる。そんな悩みを抱えながらも篤史は落ち着いた日々を過ごす。
あるとき、リビングでテレビを見ていると玄関が開き、穂波が学校から帰ってきた。
「……ただいま」
「おう、おかえり」
穂波はそのまま、自分の部屋に向かう。この日の会話はこれだけだった。それからも当たり前のようにただいまとおかえりと言い合うだけの日が続く。
そして次第に穂波は学校から帰っても部屋に直行せずにリビングでテレビを一緒に見るようになった。
会話はない。篤史としては話をしたいという気持ちはあった。しかし何を言っていいのか分からなかったのだ。まずは謝罪したい、そう思っていた。
それでも何も言葉にすることができず、ただただソファに座っていることしかできなかった。
ただ毎日その時間を過ごす中で、穂波が何に笑い、何を感じ、どう成長をしてきたのかが少しずつではあるが分かるようになる。そうやってぎこちなくもゆったりとした時を篤史は穂波と刻んでいった。
しかし職場復帰の時期が迫ってきたとき、篤史はふと、この生活を失いたくないと思った。学校から帰ってきた穂波とのリビングで過ごす何気ない時間に至福の幸せを篤史は感じていたのだ。