笹原への嫉妬

その日、歩は共同経営者である笹原と遅くまで残って仕事をしていた。

仕事が終わり、それぞれが帰宅の準備をする。

「歩、久しぶりに飲みに行かないか?」

笹原からの誘いに歩の心は揺れ動いた。しかし歩は笑顔で断る。

「ごめんな、今日は家族で食事をするって約束をしちゃったんだ」

「あ、そうかそうか。家庭が1番。良いことだよ」

「悪いな。お前も、早く結婚した方がいいぞ。もう40なんだし」

歩がそう言うと、笹原は笑顔で首を横に振る。

「いや、俺はまだちょっとそんな気にはならないな。ようやく仕事がうまくいきだして、金があるからさ、いろいろと遊びたいんだよ」

「おいおい、ほどほどにしておけよ」

そう突っ込みながら、歩は笹原に対して嫉妬心を覚えた。

「今って彼女いるのか?」

「ああ、一応な」

笹原は画像を見せてきた。それは若くて美人な女と笹原のツーショット。

「お前、これ、幾つだよ?」

「25歳って言ってたな。クラブで飲んでたときに知り合って、そのまま成り行きで付き合うようになったんだ」

「へー、そうなんだ……」

歩はそれ以上、言葉が出なかった。

「お前みたいに、若くして出会っていちずな恋愛を成就させて結婚っていうのが理想だよ。でも俺にはそれは無理みたいだ」

笹原はそう言い残してオフィスから去る。

そんな笹原の背中を歩はじっと見つめていた。