働き盛りの時期に生じた体の異変

入社して23年が過ぎたある日、少しお腹に痛みを感じていたところ、会社の健康診断で「要精密検査」の結果が届きます。血便があった後だったので、心配になって急いで病院を予約しました。そこでの検査の結果、驚くべき宣告を受けることになります。

なんと体調不良の原因は「スキルス胃がん」だったのです。テレビや映画のイメージでは、本人へ告知はせず、ひたすら隠すような深刻な病気です。しかし、この時のお医者さんの口調は拍子抜けするものでした。

「ああ、林さん、胃がんですね。これは治療をきちんとすればまた仕事にも復帰できますから頑張りましょう」

いたって軽く、まるで風邪をひいたかのような物言いだったのです。今になって振り返ってみると、この時のお医者さんが深刻にならずに説明してくれたので、後の闘病生活で深く落ち込みすぎずに済んだと林さんは言います。

闘病生活を経て「やりたい仕事」に変化が

病気の発覚後、すぐに入院し精密検査が行われました。その結果、「ステージⅢA」の段階。実際に手術して全摘した場合でも5年後生存率が46%以下の状態にあることを知らされます。詳細を聞くと、いよいよ病状の深刻さが胸に刺さり、頭が真っ白になったそうです。

それから、死を意識せざるを得ない闘病生活を経験するうち、林さんの中で仕事に対するある変化が起こりました。

「これからは会社の利益を上げることだけでなく、誰かをサポートすることをやっていきたい」

病気という理不尽な経験をする中で、多くの人から励まされ寄り添ってもらったからこそ、心の底から出てきた目標でした。その後は治療も順調に進み、幸いなことに再発・転移も起きず7年が経過しました。

●仕事に復帰後、並行してセカンドキャリアに向けた活動を始めた林さん。目標をかなえるべく、最初の一歩として始めた行動とは? 後編【「人をサポートしたい」闘病生活を経験した60代男性が、定年後に選んだ“念願の仕事”】で詳説します。