アイルランドから届いたメッセージ
帰りのバスの中でスマートフォンを開くと、通知が来ていた。ずっと前に実名で登録していたSNSにDM(ダイレクトメッセージ)が届いていた。送り主は「Ian Levitt(イアン・レビット)」という外国人だった。鼻が高く、美しい金髪が輝いている。年齢は涼子より少し年下だろうか。こんな人は知らないけど、留学時代の知り合いだろうか。気になった涼子は、そのDMを開封した。
開封したところ、流ちょうな日本語のDMだった。
「突然のメッセージ失礼します。私はイアン・レビットと申します。もしかして、アーサー大学にいたタキザワさんではないですか? 私も昔アーサー大学に通っていて、あなたの名前を聞いたことがありました。『日本からきれいなレディが留学に来た』と先輩が言っていたのです。SNSでたまたまあなたの名前を目にして、学歴欄に『アーサー大学』と書いてあったので、もしかしてと思ってメッセージを送りました。もしも人違いだったら申し訳ありません」
外国人とは思えない上手な日本語だった。イアン・レビットのプロフィルを確認してみると、アーサー大学の外国語学部を卒業していて納得した。あの大学の外国語学部には日本語学科がある。そこで日本語を習得したのだろう。
「メッセージありがとうございます。たしかに、私はアーサー大学に留学していました。まさか、すてきなレディだと言われていたなんて、知りませんでした」
涼子は英語でDMに返信した。せっかく留学までして英語を学んだのに、こうして英語を使うのは久しぶりだった。すぐにイアンから返信が返ってきた。
「本当に英語がお上手ですね。でも、私からメッセージを送ったのですから、私があなたの言葉に合わせます。私は近いうちに日本でビジネスをしたいと考えているので、もっと日本語のスキルを高めたいんです。だから、日本語で大丈夫ですよ」
涼子は胸がときめくのを感じた。「日本語で大丈夫ですよ」というイアンの気遣いがうれしかった。
「分かりました。それじゃあ、日本語で送りますね。日本でビジネスをするって、どんなことをしようと思ってるんですか?」
今度は日本語のDMを送った。イアンとやりとりをしているうちに、充実していたアイルランドの日々を思い出していた。そういえば、あの頃はアイルランド人の男の子によくナンパされていたっけ。
そんな思い出に浸っているうちに、バスが最寄りの停留所に止まった。バスを降りると、また小雨が降り始めていた。これぐらいの雨が涼子はいちばん好きだった。
●涼子の日常は以前のように輝くのだろうか? この時の涼子は自身に迫っている危機を知る術もなかった……。 後編【「あなたは誰?」結婚するつもりだった彼が突然アカウントを削除… SNS恋愛の“悔しすぎる”結末】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。