ドキュメンタリー番組で専門家の存在を知る

兄の電話の後、地元の民生委員の方からも連絡があり、施設に入れる母はともかく、「俺は病気じゃない」と精神科の受診を拒否する兄が何の行政サービスも受けられず困っていると聞かされました。

自宅はゴミ屋敷状態で、ご近所にも迷惑をかけているようで心が痛みましたが、だからといって実家に戻って兄や母の面倒を見る気には到底なれませんでした。息子が大学受験を控えているという家庭の事情もありました。

そんな時に偶然、テレビで目にしたのが高齢の親がひきこもりの子供をケアしている「8050問題」のドキュメンタリー番組でした。

その中で、8050問題に取り組むファイナンシャルプランナー(FP)の方が、「自分の家の問題だから自分だけで何とかしようとすると、親子共倒れになります。行政やNPOなど第三者が関与することで思いがけなく出口が見つかることもあるんです」と話していたのが強く心に残りました。

早速、FP田中さんへ相談することに

藁にもすがるような思いで、そのFP、田中さんの事務所に電話を入れました。受話器を取ったのは、テレビで聞いたのと同じ落ち着いた声の女性、田中さんご本人でした。

穏やかな口調で「どんなご相談ですか?」と尋ねられ、私はこれまでの経緯や実家の窮状について洗いざらい打ち明けていました。今思えば、誰かに苦しい胸の内を聞いてほしかったのだと思います。

「ご近所の方の迷惑を考えて」とか「肉親なのに情がない」と言われるかと思いきや、田中さんが開口一番口にしたのは、「それは理不尽な話ですよね」という私への共感の言葉でした。「私のこと、責めないんですか?」と聞くと、「どうして? 宮下さんが何かしたわけではないじゃないですか?」と返され、心の中を覆っていた霧のようなものが晴れていくのを感じました。

田中さんは「お兄さんも50を超えているわけですから、宮下さんに一方的に頼るのではなく、少しずつでも自立していただく方向に持っていかないと」と続け、忙しいスケジュールの合間を縫って、私と新潟の実家まで足を運んでくださることになりました。