懲戒解雇では「もらえない」覚悟を
ただし、自己都合ではなく懲戒解雇の場合は、ほぼ退職金がもらえないことを覚悟した方がよいでしょう。どのような場合に懲戒解雇になるのかは、やはり就業規則に記載されているので、よく読んでみてください。
厚生労働省のモデル就業規則によると、懲戒解雇になる事由として、
「故意または過失によって会社に重大な損害を与えたとき」
「会社内で刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかになったとき」
「私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき」
「正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき」
などが挙げられています。このような行為で懲戒解雇になると、退職金は減額や不支給となるケースが多いようです。しかし、退職金は「賃金の後払い」という性格があるため、懲戒解雇による減額や不支給は、しばしば裁判で争われています。
退職金の減額・不支給が争われた例
退職金不払いに関する代表的な判例として「小田急電鉄(退職金)事件(H15.12.11東京高判)」があります。
この事案では、痴漢撲滅運動に取り組んでいる鉄道会社の職員が痴漢行為により2回逮捕され、執行猶予付き判決を受けたうえ、余罪もあったことから懲戒免職となり、退職金不支給となりました。当該職員はその処分が勤続20年間の功績を消し去るほどの不信行為にはあたらないとして、退職金の全額支払いを求め裁判を起こしたのです。
これに対し、東京地裁は、懲戒解雇及び退職金の不支給は「いずれも有効」としました。しかし、二審の東京高裁は「懲戒解雇は有効だが、退職金は当該職員の行為に相当程度の背信性があったとはいえない」として、3割を支給すべきという判決を出しました。
また、情報漏洩により懲戒解雇された社員が退職金不支給について争った「みずほ銀行事件(R3.2.24東京高判)」でも、退職金の3割を支給することが認められています。
どちらも、会社にとっては大きなダメージのように感じますが、裁判では懲戒解雇でも退職金の3割程度を会社が支払うことになるケースが多いようです。
退職金ゼロが認められた例
一方で、今年になって退職金3割も認められなかった厳しい判決が最高裁で出ています。「退職手当支給制限処分取消請求事件(最三小判R5.6.27)」で、この裁判は民間企業ではなく公務員が争った事件です。
自家用車で酒気帯び運転し懲戒免職された公立学校の教員が、職員の退職手当に関する条例により、教育委員会から退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けて、その取り消しを求める裁判を起こしました。
高裁では「退職手当等の3割に相当する額を支給しないのは県教委の裁量権の範囲を逸脱している」とされましたが、最高裁では、原審を変更して全額不支給を認めたのです。
当該教員は、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間に渡って誠実に勤務し、反省の情を示していることを勘案しても、「社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない」として、県教委の判断通り退職金はゼロとなりました。
民間企業の会社員に比べて、公務員の場合は、裁判でも判決が厳しいようです。