「請求忘れ」という凡ミスで退職金をもらえない人も……

さて、ここまで会社の倒産や懲戒処分といった、あまり起こらないかもしれない例を見てきましたが、「退職金がもらえない」というのは実はひとごとではありません。誰にでも起こりうる例として「退職金の請求忘れ」という、驚くべき凡ミスが世の中で100万件以上発生していることをご存じでしょうか?

請求忘れが大量発生しているのは、企業年金タイプの退職金です。企業年金は、受け取る権利のある人が、自分で請求しなければもらえません。

どのような企業年金が未請求になっているかを調べたところ、厚生労働省の令和3年度末のデータでは厚生年金基金が0.2万人(受給権者数12.7万人の1.9%)で、企業年金連合会に移管されている企業年金が112万人(受給権者数1201万人の9.3%)でした。未請求者は年々少しずつ減っているようですが、割合としては常に1割程度の人が、自分の退職金である企業年金を請求し忘れている状況が続いています。

企業年金連合会のホームページで公表されている未請求者の状況によれば、令和5年3月末現在で107.7万人が裁定請求未提出者となっています。そのうち、住所変更などの手続きを行わず企業年金連合会の郵便物が届かない「請求書不達者」が64.8万人、郵便が届いても手続きをしていない「請求保留者」が42.9万人います。

この結果を見ると、「郵便物が届かない」人だけではなく「届いているのに請求していない人」が40万人以上いるのも驚きです。

退職金請求の時効に注意!

退職金や企業年金は、いつまでも請求しないでいると時効にかかって請求できなくなることがあります。退職金請求権の時効は、労働基準法115条で5年と定められています。

また企業年金の請求権には、基本権(年金を受ける権利)と支分権(分割された年金ごとに発生する受け取る権利)があり、基本権は「知った時から10年、権利を行使できるときから20年のいずれか早い方」(民法168条)、支分権(または一時金)は「知った時から5年、権利を行使できるときから10年のいずれか早い方」(民法166条)と定められています。

企業年金のうち、確定企業給付年金は、民法の定めを適用せず、規約によって民法より長い時効期間を定めている場合もありますが、いずれにせよ、時効にかかった分の企業年金は消滅してしまうことがあります。

「ついうっかりしていた……」ともらえるお金を自ら失くしてしまわないよう、郵便物はかならず目を通し、請求できるものは速やかに請求しましょう!

参考
・ 厚生労働省「就労条件総合調査」
・厚生労働省「厚生年金基金等の未請求者の状況について」
・企業年金連合会「連合会年金の未請求者の状況について」
・三井住友信託銀行 年金信託部「SuMiTRUST年金ニュース」(令和2年2月12日)