安定した収益が今後期待できる「お金のなる木」を探す
ここまでは、お金を育てるための事業判断や環境変化への対応の点では頼りになるのは、債券や不動産ではなく株式であるとのお話をしてきました。
ここからは、今後期待できるリターン水準の観点から、株式・債券・不動産の中で信頼度の高い資産はどれかを考えます。
債券や不動産にはこれまでの追い風が無風あるいは逆風に変化
前述の通り債券や不動産は事前に決められたお金を定期的に受け取る約束(債券)もしくは契約(不動産)です。したがって、市場金利が下落し、新規の約束や契約の利回りが従来よりも低下すると、相対的に利回りが高くなった昔の約束や契約の価格は上昇します。逆に市場金利が上昇し、より利回りの高い約束や契約が新たに市場に出てくると、相対的に利回りが低下した古い約束や契約の価格は下落します。
以下のグラフは世界の主要3カ国の10年国債の利回りの過去30年超にわたる変化を示しています。2020年までの約30年間は主要国の長期債利回りは低下を続けたため、その間債券投資では金利低下の強い追い風を受けて好調な運用成績を挙げることができました。しかしながら、その後米国やドイツでは利回りが底打ちし、逆に金利上昇トレンドに入っています。また日本ではこれ以上低下しない水準まで利回りが低下した後に底這っているため、金利動向は追い風から無風に変わっています。
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債券や不動産投資から期待できるリターンは、特に国内市場ではこれまでとは大きく異なる低い水準となるでしょう。長期にわたる金利低下で既に利回り自体が低い水準となっていることに加えて、今後は金利低下の追い風が期待できないためです。米国や欧州市場では、先行して金利上昇に転じており、今後の逆風の可能性や影響度は大きくないかもしれませんが、為替リスクを負うことになります。
したがって、長期投資の対象としては、債券や不動産は信頼度の高い「お金のなる木」とは考えられません。また、債券や不動産の過去の(特に長期の)運用成績を参照する際には、金利低下の影響の大きさに注意が必要です。 過去の実績はあくまでも追い風参考記録と考えるべきでしょう。
株式からは債券よりも高いリターンを今後も期待
以下は前回ご説明しました預金金利、貸出金利と株式のリターンの関係を示したものです。
前回の復習も兼ねてお話しすると
株主に対する期待リターンの考え方
(1)企業の純利益率の期待値>0
企業は、貸出し金利や諸経費を賄っても十分利益が見込める事業しか取り組まない
(2)株主リターンの期待値>貸出し金利
企業は、貸出し金利を充分に上回るリターンを提供できなければ、リスクの高い株式を通じて投資家から資金を集められない
よって、株主へのリターンの期待値(ROE)>貸出し金利(社債利回り)>Oとなると考えられます。実際のデータはどうなっているでしょうか。確認してみましょう。
2001年以降では現在に至るまで2008年の世界金融危機やコロナ禍を始めいくつかの経済的なショックがあったにも関わらず、平均ROEの水準は比較的安定しており、前回と今回でご説明した金融市場の原則から考えられる関係がデータで裏付けられています。2022年までの22年間の平均は10%を超え、結果として社債利回りもほぼ毎年上回っています。言い換えれば、これらの企業の株式の価値は年間10%という債券利回りも超えるペースで増えており、もしこれらの会社に投資していたら保有株式の価値も年間10%を超えるペースで育ったことになります。
この関係は金融市場が現在の形で存続する限り継続するはずですので、今後も、
企業のROE>借入金利回り>0
の関係は続くでしょう。つまり期待リターンの点からも株式が頼りになると言えます。
ただし株式のROEは直接享受できない
景気の波を乗り越えながらも平均10%を超え、しかも比較的安定したROEの水準でリターンを上げる資産運用ができましたら本稿も終了できるのですが、残念ながら資産運用はそれほど単純ではありません。
理由は、大きく変動する株価です。毎日変動する株価でしか株式を売買できず、結果として株式投資のリターンはその株価水準で大きく左右されてしまうためです。
先ほど見ていただいたグラフに世界株式指数の各年の円建てのリターンを加えてみました。先ほどと同じグラフですが、株式指数の変動が大きいため縦軸のスケールを変えています。ROEの水準が意味がなくなる大きさで株価が変動していることがお分かりいただけると思います。
※図をクリックで拡大表示
それではこの株価の変動にはどのように対処すればよいでしょうか? どうすれば不安感を軽減することができるでしょうか? また投資対象となる企業間での較差はどのように解消すれば良いでしょうか?
次回(第4回)は、頼りになる株式投資を自信を持って行う方法や考え方についてお話しします。