そして、私たちがお金をただ貯めるだけでなく、「増やさないといけない」理由がもう1つあります。それは、物価上昇=インフレ(インフレーション)です。「インフレ」という言葉は、ほとんどの人が知っていると思います。ただ、長らく「日本にもインフレがやってくる」といわれながらも、インフレはなかなか起きませんでした。

そのため、ニュースなどで日本にもインフレがやってくると報道されても「どうせ、今度もインフレは起きないだろう」と考えてしまっている人もいるようです。ところが、日本も原材料価格の高騰や物流コストの上昇を背景に、本当にじわりじわりとインフレが進行しています。

インフレが起きてモノの値段が上がると、私たちのお給料(賃金)が上昇しない限り、今まで買えていたものが同じ金額で買えなくなります。そこで、各国の中央銀行は、金利を引き上げて、景気の過熱感を冷まし、物価上昇を抑制しようとするのです。

金利が上がると、住宅ローンをはじめ、お金を借りる際の負担は増えますが、お金を貸したり、投資したりする際の見返りも大きくなります。たとえば、個人向け国債の適用金利は2022年以降、じわりじわりと上昇しています。これは、投資家にとって朗報です。

また、株式も将来のインフレに対する期待が織り込まれた価格になるので、インフレ時に耐性を発揮します。この点もまた、投資家にとってはプラスの側面です。ただし、「タンス預金」に代表されるように、お金をただそこに置いておくだけでは、こうした恩恵を受けることができません。いま100万円を貯めてタンスに入れておいたとしても、20年後30年後に今と同じ100万円の価値で使える保証はないのです。むしろ、インフレが起きると、お金の価値が事実上目減りしてしまいます。1990年以降の日本は、モノやサービスの値段が継続して下落するデフレーション(デフレ)の時代だったので、「タンス預金」でも、さほど深刻に捉える必要はありませんでした。しかし、インフレの時代が来るとなると、そうはいきません。

このように、資産運用は、インフレに対処するために、また、お金が時代の流れに取り残されないようにするためにも重要なのです。米国で資産運用が根付いているのは、単に個人主義だからというわけではなく、国民全体が恒常的なインフレを経験しているからです。資産運用をしないと、自分のお金の価値が実質的に目減りしてしまうことを米国民は身をもって体感しているので、資産運用に積極的な人が多いということなのです。

●後編(旧制度のデメリットも解消…新NISAの利便性が“格段に向上した”と言えるワケ)は、新NISAのポイントなどについて解説します。

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