中小企業とつながりが強いFPに相談

上の息子と大して変わらない年齢の桐谷さんに対して最初は懐疑的でした。ですが、桐谷さんのウェブサイトをのぞいて、中小企業の労務管理を「そこまでやらなくてもいいだろう」と思うくらい熱心にサポートし、個人の相談者からは絶大な信頼を寄せられている様子に好感を持ち、一度会ってみることにしたのです。それが1カ月ほど前のことでした。

桐谷さんは非常に礼儀正しい好青年で、「これなら中小企業の社長の受けもいいだろうな」と思いました。半面、なかなか油断ならない人物であることも分かりました。私が事前に送った経歴書を見ながら、現状について極めて的確な質問を繰り出してきたからです。

ただ、私が自虐的に「私のような人間を必要とする会社はないんです」と話した時には、「それは違うと思います」と真っ向から反論してきました。そして、桐谷さんのクライアントである中小企業各社が置かれている現状と、それらの会社が人材の確保にいかに苦心しているかという内情を切々と語り始めたのです。

上から目線と思われても仕方がないのですが、正直、最初は地元の中小企業には全く関心がありませんでした。転職先を探す際も「大手メーカーで働いてきた自分にふさわしい会社を選ぼう」という観念が頭を離れず、無意識にえり好みをしていたようです。

しかし、桐谷さんの話を聞いて心が動き、思わず「私にお手伝いさせていただけないでしょうか?」と口にしてしまったのです。そこからは、とんとん拍子で話が進みました。

見つけた居場所は小さな商社の営業部

私は、100年続く地元の小さな商社の営業部長を務めることになりました。同じ営業部長の肩書でも、従業員数は前の会社の100分の1、給料は3割近く減ってしまいます。

とはいえ、今の会社にいても来年度からは減収を免れないわけですし、商社の5代目の若社長からは「沢崎さんさえ良ければ、働ける限りは働いてほしい」と言われています。この急展開には、桐谷さんを紹介した妻も仰天したようです。

「あなたは結局、今の会社にしがみついていると思った」と本音をこぼされ、妻にさえそんなふうに思われていたのかと少々気落ちしました。

それからは久しぶりに密度の濃い1カ月を過ごしました。会社にはすぐに退職の意思を伝え、手続きに入りました。追い出し部屋からの脱出はどうやら私が第1号だったようで、同僚たちからは驚きと羨望の入り交じった視線を向けられました。