管理為替相場の敗北の歴史

ドルペッグ制のように、為替を管理しようとする試みは多くの国で行われてきました。しかし、それによって生じる歪みを市場が見逃すことはありません。通貨をコントロールすることができず、相場の急変を招くケースがたびたび生じてきました。

「ポンド危機」はその代表的な事例です。著名投資家のジョージ・ソロス氏は、イギリスが参加するERM(欧州為替相場メカニズム)(※)によって英ポンドが割高になっていると判断し、100億ドル以上の大規模な売りを仕掛けました。

※ユーロ導入に先立って参加国の為替相場の変動の抑制を目指した制度

イギリスは自国通貨を支えることができず、ERMからの脱退に追い込まれます。英ポンドは激しく値下がりし、ポンド円は260円台から140円台にまで下落しました。

【英ポンド円の推移(月足、1991年1月~1993年12月)】

Investing.comより著者作成

近年では「スイスフランショック」が記憶に新しいでしょう。スイスは2011年、ユーロに対して自国通貨のフランが上昇し過ぎないよう1ユーロ=1.2フランの上限を設定し、これを維持するため無制限に為替介入を行うと宣言します。

しかしギリシャショックなどで信用不安が広がったユーロには下落圧力が働きやすく、スイスはフランの上昇を抑えこむことが難しくなります。そして2015年1月に突如として設定した上限の撤廃を発表し、ユーロスイスフランのレートはわずか20分ほどの時間で0.8フラン台にまで急落しました。ごく短い時間に急激な変動が生じたことから、多くの投資家が損失を抱えたとみられています。

【ユーロスイスフランの推移(月足、2014年1月~2016年12月)】

Investing.comより著者作成

このように、為替相場をコントロールすることは主要な先進国であっても難しく、市場との戦いに敗れるとタガが外れたような急変が起こり得ます。管理為替相場を採用する国の通貨であっても、取引の際は十分に注意するようにしましょう。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。