世界的な金融緩和政策が転換の兆しをみせ、米国の利上げや日銀の出口政策にも注目が集まっています。この数年で揺らぐ金利大変動が移行期を迎えている今こそ、これらのポイントとなる“金利”の意義や仕組みについて改めて知っておきたいところです。

金利について学ぶことは金融の基本であり、金利を糸口にすれば経済を読み解けると説くのが金融アナリストの田渕直也氏。話題の書籍『教養としての「金利」』では、世界経済の新たな構造変化の土台となる金利の基本について解説。今回は本書冒頭の「はじめに」と第1章「金利とは何か」、第2章「金利の計算方法」の一部を特別に公開します。(全4回)

※本稿は、田渕直也著『教養としての「金利」』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

金利が必須の教養である理由

金利は、いうまでもなく金融における基本のキです。金融が経済全般や我々の生活に与える影響の大きさを考えるなら、金利は多くの人にとって必須の教養ということができるでしょう。

金融には、大きく分けてデット(負債、債務)とエクイティ(自己資本)があります。デットとは、銀行からの借入や債券発行などによって得るお金のことで、この部分に金利が大きくかかわってきます。

その世界市場規模(金融機関は除く)は、IMF(国際通貨基金)によれば2021年末時点で235兆ドル、日本円換算で3京円近くに上ります。簡単にはイメージできない金額ですが、経済活動の規模を示す世界GDP(国内総生産)のおよそ2.5倍といえば、とにかくすさまじく巨大な規模であることがわかるでしょう。

しかも、それだけではありません。金融のもうひとつの分野であるエクイティは、株式会社であれば株式の発行によって得るお金のことですが、その価値もまた金利によって大きく左右されます。つまり金利は、デットだけでなく、金融全体に欠かすことのできない重要な要素なのです。

これほど重要な金利ですが、どこか地味でとっつきにくい印象をもつ人も多いでしょう。ひとつには、一口に金利といっても、実際にはさまざまな金利があり、全体像が掴みにくいという点があります。その全体像を理解するためには、金利をイールドカーブと呼ばれる期間構造として捉えなければならず、そのイールドカーブの大部分が形成される債券市場についても十分に知る必要があります。

近年、とくに日本では超低金利時代が長く続き、金利はないに等しく、かつほとんど変動しないことが当たり前となってきました。それが、ニュースなどで金利が報道される機会を少なくし、金利に対する関心をもどんどん薄れさせてきたように思います。

たとえば、金利に関するプロであるはずの金融機関や運用会社でさえも、高金利時代や金利が大きく変動する局面を経験してきた人がいまではほとんどいなくなってきています。

ところが2022年に入り、世界中の金利が突如として急激な変動をみせるようになりました。これは歴史的な大転換となる事象かもしれません。そうであれば、金利が超低水準に張り付いて動かず、関心をもたなくても済んだ時代が終わりを迎え、金利の変動がさまざまな分野で大きな鍵を握る時代が再び蘇ってくることになります。

冒頭で述べたとおり、金利は本来、一般の人にとっても、ビジネスマンにとっても、必須の教養のひとつといえるものです。これからの時代は、とくにその度合いが強まることでしょう。