ネット事業費の上限は20年で20倍、急速なデジタルシフトへ

さまざまな収益源がありつつも、NHKの収益の柱はあくまでも「受信料」ビジネス。これが今、大きな転換期を迎えているのはご存じだろうか。

冒頭で述べた有識者会議をはじめ、2022年ごろより、NHK放送を視聴できるスマートフォンなどの保有者から受信料を徴収することを、本格的に議論し始めているのだ。国民から大きな反発を招きかねない動きの理由は何があるのだろうか。

根本的な背景には、モバイル端末の普及によるインターネットユーザーの急増、そして動画ストリーミングなどのデジタルコンテンツの普及がある。激変するメディア環境により、国民の「地上波離れ」は急速に進んでいる。

例えば、NHK放送文化研究所が5年に1度行う「国民生活時間調査」の2020年調べでは、1日(平日)にテレビを見る人は全体の79%で、15年の85%から大きく減少。とくに若い16〜19歳代後半では47%と約半数がテレビを見ない結果となっている。

現状の受信料制度を維持しているだけでは、将来的な収入のダウンサイジングはどうしても避けられない。事実、受信料契約数の低下などに伴い、2019年度以降は減収傾向が続いている。

あくまで非営利を掲げるNHKだが、将来的には組織の円滑な運営すら危ぶまれる事態にもなりかねない。そのため、提供コンテンツのデジタルシフトが急務となっているわけだ。

そんなNHKの思惑は「インターネット活用業務」の拡大方針からも見てとれる。NHKでは現在、地上波事業を必ず行うべき「必須(本来)業務」とし、現在のインターネット活用事業はあくまで実施可能な「任意業務」と呼ぶ。

 

出所:総務資料「インターネット活⽤業務の財源と受信料制度に関する論点」

このように、現状はあくまでテレビ放送の補完的位置づけとなっているネット事業だが、その費用や予算上限額が近年大幅に拡大しているのだ。

 

出所:決算概要などNHKの各種資料

ネット事業の財源について、現状はまだ安定している受信料収入に加え、これまで積み増してきた繰越余剰金(内部留保)が5000億円以上たまっており、事業開拓に投じられる資金は豊富だ。一般企業よりはリスク投資に臨みやすい環境といえる。

とはいえ、ネット事業拡大の道のりは、決して平たんとはいえない。NHKには乗り越えるべきハードルがいくつもあるのだ。

後編『NHKのネット進出が民業を圧迫? 総務省からは「耳にタコ」の改革要請』
では、今後のネット事業展開における懸念点や、同社が総務省から要請された改革内容などについても詳しく解説していく。

文/藤田陽司(ペロンパワークス)