誤解によって起こる行き違い

このように、基準価額の算出が「その日の取引が終了した時点での株価や債券価格をベースにして計算されている」ため、ちょっとした行き違いが生じるケースもあります。

たとえば、日本株に投資しているファンドを保有していたとしましょう。午前9時、場が開くのと同時に株価が大きく上昇し始めました。今日、このファンドを解約すれば、基準価額も値上がりして大きなリターンを稼げるともくろんで解約注文を出しました。

ところが、株式市場の勢いが良かったのは午前中まで。午後から売りに押され、株価は大きく下げ、基準価額も前日に比べて下がってしまいました。

結果、どうなるかというと、この解約注文には、午後からの株価下落によって下がった基準価額が適用されてしまうのです。値上がりをもくろんで解約した人からすれば、とんだ計算違いです。

だからこそ、自分が持っている投資信託の注文の締切時間と、その際に適用される基準価額がいつ時点のものになるのかという点は、しっかり把握しておく必要があるのです。

基準価額の水準の考え方

さて、基準価額にはもうひとつ、大きな誤解があります。それは「基準価額の水準は安い方が割安」というものです。

「こよみ」では指摘されていませんが、結構多くの方がこの誤解をしており、そのため基準価額が高くなった投資信託は、資金流入が落ちるという問題が、かねてから指摘されています。つまり「基準価額が3000円の投資信託は割安で、3万円の投資信託は割高」というイメージが定着しているのです。

これこそ完全な誤解です。

そもそも基準価額とは何か、ということですが、これは受益権1口あたりの純資産総額を示しています。純資産総額とは、ファンドに組み入れられている株式や債券など有価証券の時価総額です。分かりやすいように、特定の株式だけを組み入れたファンドを事例にして説明していきましょう。

たとえば1株の株価が1000円の株式を100万株組み入れると、このファンドの時価総額は10億円になります。そして、この投資信託に資金を集めるために発行された受益権が10万口だとすると、基準価額は、

10億円÷10万口=1万円

になります。ちなみに受益権とは、投資信託の運用で生じた利益を受け取る権利のことで、その権利が自分自身にあることを示すのが受益証券であり、保有数は「受益権=口数」で表示されます。

ところで、上記の事例では株価を1000円として計算していますが、1000円の株価が割高か割安かを判断するためには、その会社の業績(利益)や、会社が保有している純資産額と比べたうえで、今の株価はどうなのか、という観点で考えます。

したがって、業績が非常に良く、この先の業績に対する増益期待も高いうえ、さらに豊富な純資産を持っているような超優良企業であれば、株価が2000円でも割安と判断される可能性がありますし、逆に株価が500円でも割高と判断されることもあるのです。

では、前出の事例と同様、組入株式数を100万株、発行している受益権を10万口とした投資信託があるとして、組入株式の株価が1株2000円だとすると、基準価額は2万円になりますが、この株価が割安だとしたら、2万円の基準価額は決して割高とは言えません。逆に、組入株式の株価が1株500円でも、それが割高であれば、5000円の株価は割安であると言えないのです。

つまり、基準価額の水準の高低は、割高、割安をはかるための基準にはならないということです。運用方針などを見て、そこに「割安銘柄に投資します」と書かれていたら、たとえ基準価額が3万円を超えていたとしても、組入銘柄のポートフォリオ全体は、決して割高ではないと考えられます。