経団連が5月19日に公表した「2023年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況〔了承・妥結含〕(加重平均)」で、大企業の賃上げ率は3.91%となり、30年ぶりの高水準になることが分かりました。
ちなみに2022年春闘における賃上げ率は、最終集計段階の数字で2.27%でした。過去10年ほど、2%前後の上昇率だったことからすると、2023年春闘における3.91%の賃上げ率は、企業側としてもかなり頑張った数字と言えそうです。
例えば、トヨタ自動車は、労働組合の要求に対して満額回答をしています。同社の場合、労働組合が「職種別」「階級別」に15パターンの賃上げ要求を提示しました。それに対して経営陣が満額回答をしたというわけです。
気になる金額は、15パターンで最も高いケースだと、月額9370円の賃上げで、ボーナスは年間で月給の6.7カ月分になりました。月額9370円ということは、年額で11万2440円増えることになります。結構、大きな金額ですね。
大幅な賃上げが実現した背景
なぜ2023年の春闘で大幅な賃上げが行われたのでしょうか。
まず物価高の影響です。生鮮食品及びエネルギーを除く総合の前年同月比は、2022年10月に2.5%の上昇となり、日銀が金融緩和政策を見直す際の目標値である2.0%を超え、その後も上昇率は高まっています。2022年12月には3.0%となり、2023年4月には4.1%となりました。
この「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」は、気象条件によって値段が大きく変動する生鮮食品と、国際政治情勢に価格が大きく左右されるエネルギーを除いた消費者物価指数です。
物価が上昇する一方で賃金が上がらなければ、勤労者の生活水準は落ちてしまい、働くモチベーションに悪影響を及ぼす恐れがあります。したがって多くの企業が賃上げに踏み切りました。
もうひとつの要因は、人手不足です。人口減少・超高齢社会に入った日本では、特に働いて稼ぐ世代の人口減少が加速しています。そのなかで、これまで中国に展開していた生産拠点を日本国内に回帰させたり、コロナ明けのインバウンド観光客の急増で、飲食店や宿泊施設が深刻な人手不足に陥ったりしています。
そのため、人材確保を目的にして多くの企業が、賃金の引き上げに動き始めているのです。