賃上げが景気に与える影響

賃上げによって生活水準が向上すれば、人々は消費を活発に行うようになり、企業業績の向上につながります。企業業績が向上すれば、社員の給料はさらに上がり、それがさらなる消費を促します。

このように、賃上げには景気を良くする効果があります。では、この賃上げに伴って、いよいよ日本の景気も回復へと向かっていくのでしょうか。

この点については、いささか気になることがあります。

まず、前出の賃上げ率は、あくまでも経団連に属している大企業の話である点には、注意しておくべきでしょう。

日本の産業構造は、中小企業および小規模事業者が中心です。中小企業基本法に定められた中小企業および小規模事業者の定義によると、中小企業は製造業だと資本金3億円以下または従業員数300人以下で、サービス業だと資本金5000万円以下または従業員数100人以下とされています。そして小規模事業者は、従業員20人以下の企業を指します。

日本の場合、中小企業は企業数で全体の99.7%を占めています。つまり前出の賃上げ率が適用されるのは、企業数で0.3%という極めて狭い世界の話です。

この賃上げが本格的に景気回復へと好影響を及ぼしていくためには、中小企業・小規模事業者にも、賃上げの流れがしっかり定着しなければなりません。

ちなみに日本商工会議所と東京商工会議所が実施した「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」によると、2023年度に「賃上げを実施予定」と回答した企業が58.2%に上っていることが分かりました。ただ、そのうち業績改善を伴わない「防衛的な賃上げ」が62.2%を占めています。

本来、賃上げは業績が改善したことを反映して行われるものですが、中小企業の場合、たとえば「インフレから従業員の生活を守る」とか、「人手不足を解消する」といったような、業績回復による利益還元ではない、他の理由による賃上げがかなりの部分を占めているのです。

防衛的な賃上げは持続性に欠けます。資金面で余裕のある大企業であればまだしも、中小企業の場合、資金的なゆとりも少なく、そのうえ業績回復に時間がかかるとなれば、持続的な賃上げを維持することは不可能です。

したがって、この賃上げの流れが中小企業の業績回復を伴って広く波及していくものなのかどうかという点は、注意深く見守っていく必要があるでしょう。