賃上げのメリットを感じられない理由

もうひとつの問題は、社会保険料や税金負担、ならびに物価上昇によって、せっかく賃上げされても、実質的にほとんど賃上げされていないのと同じになってしまう恐れがあることです。

これは5月10日付、日本経済新聞に掲載されていた記事ですが、総務省が同月9日に発表した2022年度の家計調査によると、2人以上の勤労者世帯の「非消費支出」は月11万7750円で、この20年間で1.4倍に増えたということです。

非消費支出とは、社会保険料や直接税(勤労者世帯の場合は所得税や住民税)のことです。つまり、食品や日用品、レジャーなど生活で行われているさまざまな消費による支出ではなく、国民として社会を支えるために拠出しなければならない、したがって前出の消費に回すことのできない支出、ということになります。

この手の社会保険料や直接税の負担が重くなればなるほど、消費に回せる可処分所得の割合が減り、その分だけ家計部門における消費行動が抑制されることになります。

現在、政府は「次元の異なる少子化対策」の財源確保として、社会保険料の上乗せを検討しています。5月24日に多くのメディアが報じたところによると、国民1人あたり500円の負担増になるようです。それに加えて、現行制度で16歳から18歳に適用されている扶養控除を見直す案も浮上しています。

そして、ここに物価上昇がかぶってきます。厚生労働省が発表した3月の毎月勤労統計調査によると、1人あたりの賃金は、物価を考慮した実質賃金で▲2.3%(前年同月比:確報値)となりました。

ちなみに実質賃金の前年同月比は、2022年4月にマイナスへと転じ、そこから12カ月連続でマイナスが続いています。言うまでもなく、この間、消費者物価指数が上昇したため、受け取った給料が目減りしているのです。

確かに、この春闘で大手企業の賃金は上昇していますが、物価上昇や社会保障負担増などを考えると、「生活が楽になった」という実感は、ほとんどないのかもしれません。