転職時に気をつけたいDCのポータビリティ(資産移換)
器を整える、ということから考えると、定着にかなり時間のかかった項目があります。DCのポータビリティ(資産移換)です。2000年代の初頭は、DCの資産移換を行う人はほとんどいませんでした。それが、ここ数年でかなり一般化してきましたが、同時に課題もあるようです。
DCのポータビリティ(資産移換)について、実務を振り返ってみましょう。
Aさんの事例
前職S社:2022年6月30日に退職(企業型DCに加入)
転職先N社:2023年1月1日に入社(企業型DCに加入)
【加入者本人の手続き】
Aさんには、いくつかの選択肢があります。
1)S社を退職後にiDeCoに資産移換する
→①iDeCoの加入者になる
→②iDeCoの運用指図者になる
2)S社を退職後に企業型DCの資産はN社に入社するまで手続きをしない
それぞれのケースを見ていきます。
1)S社を退職後にiDeCoに資産移換する
Aさんは、まずiDeCoの受付金融機関を選択する必要があります。S社の退職前に1カ月ほど有給休暇を取得できたので、6月中にWEBサイトでiDeCoの受付金融機関を検索できました。ただ、2022年6月時点では、まだS社の加入者資格は続いていたので、資産移換はできません。
〈7月の初旬〉
記録関連運営管理機関から封書「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」が届き、手続きができるようになります。
企業型DCのある企業を60歳よりも前に退職する際には、iDeCoの①加入者になるのか、②資産移換のみで運用指図者になるのか、の判断に迷います。
将来の状況がわからないので、②の運用指図者を選択しがちですが、当面の生活費に困らない程度の余裕があるのであれば、①加入者もぜひ検討してみましょう。国民年金の第一号被保険者であれば、iDeCoの拠出上限額は1月あたり68,000円です。住民税は前年の収入に対して課税されますが、iDeCoに掛金拠出することで翌年の住民税の軽減が可能、というメリットがあるためです。
なお、N社への入社が2023年なので年末調整をしてくれる企業がないため、Aさんは2023年の2月16日から3月15日の間に確定申告による税金の手続きが必要です。
〈2023年1月〉
N社に入社後は、iDeCoの資産を移換するかしないか、が選択できます。また、N社の企業型DCの掛金額次第ですが、多くの場合、加入者として掛金拠出を続けることもできます。
2023年1月以前に掛金拠出をしていた場合は、会社員になることでiDeCoの掛金上限額がかわり、勤務先の登録も必要になるため、iDeCoの受付金融機関に連絡を取り、必要な書類を請求することになります。
2)S社を退職後に企業型DCの資産はN社に入社するまで手続きをしない
2)の場合は、「自動移換」が気になるところです。
N社の立場にある企業型DCの担当者から質問をいただくことの多い項目です。
Aさんの場合、資格喪失日は7月1日(退職日の翌日)です。そのため、資格喪失日の属する月の翌月から数えて6カ月が自動移換されない手続き期限となります。つまり、1月の入社後すぐにS社の企業型DC資産の移換手続きを行うことで、自動移換にならずに済むわけです。
Aさんが行う具体的な手続きは、「個人別管理資産移換依頼書」に必要事項を記載し、N社の担当者に提出することです。その際、7月の初旬に届いた「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」を手元に用意しておくと、必要事項をすべて記載することができます。
※DC資産の移換手続きに必要な情報
①企業名、②実施事業所登録番号(規約承認番号)、③記録関連運営管理機関の名称
①~③の情報は「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」に記載されています。