法律上の権利とはいえ、夫が弁護士でお金に困っているわけでもないのにと、佐々木さんは妹を心の底から憎みました。いや、妹というよりも、妹に入れ知恵して家族を崩壊へと追いやっている妹の夫に激しい憤りを感じました。
しかし一方で、佐々木さんはこんなふうにも思って自身に対して深く後悔しているのだといいます。
「あの時、30年前、母が亡くなってからもう少し妹に対して寛容に、自由にさせてあげていれば、こんなことにもならなかったような気がするんです。全てあの時に生じてしまった亀裂が尾を引いているんじゃないかって。何かの拍子に、簡単に崩れ落ちてしまうヒビが、妹との間にはあったんだろうなって……」
結局、佐々木さんは老後のためにコツコツ積み立てていた1000万円の預金を全て妹に渡したそうです。そして、二度と自分たち家族の前に姿を見せてくれるなと、今後は家族の縁を切ることも告げたといいます。
佐々木さん家族はどうすればよかったのか
父親もまさか自分の死後に家族がこんなことになろうとは、ゆめゆめ想像もしていなかったでしょう。今回のトラブルは、「生命保険金」の受取人の選択を誤ったために起こってしまいました。また、そもそも遺言書をきちんと残していれば、トラブルにならず父親の想定通りに遺産相続ができたでしょう。
生命保険の受取人は兄(佐々木さん)にすべきだった
法律上、生命保険金は受取人固有の財産であるため、相続の分割対象とはなりません。今回のケースでは遺産総額は4000万円(自宅3000万円+預金1000万円)で、法定相続分は兄(佐々木さん)と妹で2000万円ずつでした。
兄が父親の生命保険金1000万円を受け取っていれば、自宅(3000万円)を相続していても、妹に渡さなければならない1000万円に充てることができました。大切な老後資金を失うことなく相続することができたのです。
父親は遺言を書いておけばよかった
父親が生前に、自宅は兄(佐々木さん)に、預金は妹に相続させる旨の遺言書を残しておけば、当初の想定通りの遺産分割ができました。つまり、妹の遺留分(※)は4分の1なので1000万円となり、妹がこれ以上もらう権利が発生しないのです。
※遺留分:法定相続人に最低限保障される遺産取得分。法定相続分の半分なので、今回のケースでは4分の1となる。
相続は大きなお金が動くことが多く、家族関係をも動かす可能性のあるセンシティブな問題です。正しい知識を持っていないと思わぬトラブルになってしまうため、さまざまな可能性を考慮に入れて、あらかじめ対応しておく必要があることに留意しましょう。
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