「ついのすみか」をどうするか

千里さん(仮名、70歳男性)は3つの店舗を経営する飲食店のオーナー。東北地方で生まれ育ち、高校卒業と同時に上京しました。千里さんにはもう20年共に生活している同性のパートナー(60歳)がいます。パートナーがフリーランスのライターで、それなりに仕事はあるものの千里さんほどの経済的基盤がないことが心配です。時折、事業を誰に引き継ごうか、どのようにしたらパートナーに財産を分与できるのか、と考えています。

千里さんのお店の常連に、近隣の不動産を手広く扱っている会社の社長がいます。千里さんが夢物語のように、いつか自分で好きなように設計した家に住みたいと話していたところ、ある日、リノベーションができる広いマンションの部屋が売りに出そうだと教えてくれました。相場より少し安くしてくれるとのことで、千里さんの資産からすると買えない額ではありません。しかし、パートナーにも少しお金を出してもらった方がお互い気兼ねなく暮らせるような気もします。

家でパートナーに話してみたところ、「すごく素敵だと思うけど、もういい年だから、介護が必要になることもあるだろうし、ずっと住めるとは限らないよね。そのときに応じて家を住み替えられるほうがいいんじゃない? どちらか先に死ぬんだし、そのときも同性パートナーが相続できずに追い出されたりして大変だって聞いているよ」と後ろ向きでした。もういい年だからこそ“ついのすみか”を作りたいのに……と千里さんは悲しくなり、自分だけでお金を出して買ってしまおうかなと思案しています。