そもそも兄弟姉妹に生計維持関係はない?

日本の年金の歴史は、厚生年金保険の前身である「労働者年金保険」にさかのぼります。当初より遺族年金は当時の必要な要件を満たした遺族として、「死亡者と死亡当時から同一戸籍内であり、死亡当時その者によって生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母に支給するもの」とされていました。支給範囲の線引きに兄弟姉妹は生計維持という概念がなかったのかもしれません。

しかし、時は流れ、家族のスタイルが変化している現代社会では、兄弟姉妹(お互いがおひとりさま)だけが親族というおひとりさまが増える可能性があります。

横道にそれるかもしれませんが、同じ社会保険という枠で考えるなら、公的医療保険制度での被扶養者の範囲は「被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(必ずしも同居している必要のない人)」(協会けんぽより)とされています。健康保険との違いから考えても、兄弟姉妹が遺族年金の対象者に含まれないのはモヤモヤを感じてしまいますよね。

ちなみに、本稿のメインテーマは遺族厚生年金ですので、余談にはなりますが、国民年金第1号被保険者の遺族年金の独自給付として、「寡婦年金」と「死亡一時金」があることも付け加えておきます。寡婦年金は要件を満たした「妻」が受け取ることができる給付で夫にはありません(ここもモヤりポイントと言えるでしょう)。また、死亡一時金は国民年金第1号被保険者の保険料納付済み期間が3年以上ある人が死亡したとき、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)で死亡したときに生計を“同一”にしていた人が受け取りの対象になります(詳細は割愛しますが、“維持”ではないのもポイントです)。第1号被保険者独自の給付では、掛け捨て防止があり、死亡一時金には兄弟姉妹が含まれます。遺族年金というくくりで比べると、モヤモヤを感じる方もいるかもしれません。

まとめ

働き方や家族の在り方が変化している現在、公的年金も都度見直され、法改正もされています。今回は遺族年金を通して、年金の世界が定義する“家族”を歴史的背景も含めて解説してきました。

おひとりさまのように、生計維持関係者がいないとなると、民間の定期保険と同じように年金保険料の掛け捨てになる事態もありえます。公的年金だからこそ、1人でもモヤモヤする人が少なくなるように、引き続き法改正を含め、柔軟に対応できるような仕組み作りの検討は必要ですね。