貯蓄目標の達成に向けた地道な努力とともに、収入増大の手立ても欠かせない

10年ほど前の名高い月刊誌に、日本に3大資産家がいるとする記事があった。成功を収めた中小企業経営者ならびに医者・弁護士などの開業専門職とともに、有力企業の総合職の共働き世帯を取り上げていた。確かに2人で稼ぐ収入は、1人で稼いだ場合に比べてトータルの税金は安いし、出費も上記2種類の職種ほどではなく、実質的にかなり大きなものとなるだろう。最近の億ションの売り出しにも、駆け付けるのは大部分がパワーカップルと言われる共働き世帯だそうだ。パワーカップルに限らず、家計にしなやかさを育む意味でも共働きは検討に値する。

同時に、自らの市場価値を高める努力も大切にしたい。資産形成に向けた投資も大切だが、自らへの投資も欠かせない。

ある会合で知り合った男性は、家庭環境のせいで普通高校を卒業してすぐに就職せざるを得なかった。収入も下位に低迷気味で自らの将来に不安を抱いたが一念発起、難易度の高い試験に挑戦、毎日4時間睡眠を続けたとのことだ。幸い2つの難関資格を獲得して、有力会社に入社できたそうだ。収入も伸び貯蓄余力も出たうえに、好きな海外旅行にも行けるようになったと話していた。日々の勤務と猛勉強は大変だったと思うが、こんな人もいる。

人生最大の敵は虚栄心と欲、“身の丈消費”を心がける

華美に走らず堅実な生活をすることも、資産形成の大きな柱だ。テレビでもおなじみだが、日本経済新聞の編集委員の小栗太氏の生活態度は参考になる。5分程度の時間で記入できる、アナログ形式の簡単な家計簿を自分で作成し、25年間にわたり毎日記入し続け、予算内での生活を心がけているそうだ。最近は10日単位の予算に基づく家計管理の実践で、家計を圧縮したとのことだ。

また家計管理に子供も参画させることも大切だろう。子供が中学生前後になった段階で、家庭のお金の事情を子供と話し合う場づくりも検討したい。親が“1”我慢すれば、子供は“10”我慢すると言われる。早くから金銭感覚を身に付けることは、子供の自立だけでなく、親が退職した後のお互いの自立にもつながる。

“ねだられ貧乏”という言葉がある。成人した子供に孫の教育費やその他の経費負担をねだられ、ついつい親がお金を出すことで、後で発生する自らの医療費や介護費用に対応できず、子供にも負担する金がなく親子で困窮する事態だ。お金の有限性について早くから教育することは、お互いの幸福につながるのではなかろうか。

一方、共働き世帯はますます増加している。ただ、共働きの場合、収入が多いとして家計管理がおろそかになるのは注意だ。結婚前の別々の財布管理をそのままにして、いざ住宅の購入とか教育資金の捻出といったときに、お互いにほとんど貯蓄がなかったという事態も発生しうる。

将来計画を含めて定期的に金銭計画を話し合うことが肝心だ。収入源が2つあっても金銭管理はまとめて考えるようにしたい。家賃や光熱費は夫が支払い、食事代や子供の塾などの習い事は妻が負担するなどの役割を分担するとともに、生活費の銀行口座は1つにまとめて、各費用をこの口座から引き出すようにする。

一方、小遣いや貯蓄・投資については、2人で相談したうえで個々の口座で管理し、しかも定期的に実態を確認しながら話し合う機会を設ける。お金の動きを“見える化”して、着実な将来設計を確認し合うことが大切だ。

執筆/大川洋三
慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。
著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。