楽しみと不安が入り交じる妻

課長への連絡を済ませてから2カ月後、子猫を引き取る当日を迎えた。

茉莉はリビングの隅に用意してあるケージやトイレなどを見ながら、子猫がやってくるのを待っていた。仕事を終えた稜人がそのまま課長の家へ行き、子猫を引き取ってくるという流れになっていた。

茉莉は子猫がやってくることに対して、楽しみな気持ちと不安な気持ちが半々だった。2人で力を合わせると言っておきながら、結局ケージなどを用意したのは茉莉だった。このまま1人でお世話を押しつけられたらどうしようという気持ちは正直あった。

茉莉がソファに座りながらそわそわしていると、玄関の鍵が開く音がした。すぐに玄関に向かうと、稜人は小さな猫用のキャリーケースを抱えていた。

「ただいま。はい、新しい家族だぞ」

茉莉はゆっくりとキャリーケースの中をのぞいた。するとそこには、不安そうな顔でこちらを見ている子猫の姿があった。その顔を見た瞬間、不安や不満の気持ちはすべて消え去り、笑顔がこぼれ落ちた。

「かわいい……」

「だろ。マジで写真の何倍もかわいくて俺もびっくりしたんだ」

茉莉はキャリーケースの中に手を伸ばして、ゆっくりと子猫を抱き寄せた。すると子猫は茉莉を見ながらニャアと鳴いた。

順調だった猫との新生活

ナギを迎えてから茉莉たちの生活は今までと変わっていった。

「ナギ、ほら、お水だぞ。いっぱい飲めよ」

仕事から帰ってきた稜人は水の入った容器をナギの前に置いて、その様子をカメラで撮影していた。キッチンで晩ご飯を作っていた茉莉はリビングへ行き、稜人に声をかける。

「ほら、ご飯できたから着替えてテーブルに座ってよ」

「ちょっと待って。もう少ししたらするから」

そう言いながら、稜人はナギの前から動く様子を見せない。ナギにぞっこんな稜人に困りながらも、その気持ちは分かるな、と思った。

「そういえば、ナギのワクチン、病院で打ってもらわないといけないな」

「ああ、そうだね」

「早めに予約をいれておかないとな」

そう言って稜人はスマホで近くの動物病院のネット予約をした。

ちゃんとお世話してくれるか不安だったが、稜人は時間の許す限りナギの面倒を見てくれて、とても頼りになっていた。ナギについて話すことも増え、夫婦の会話が以前より弾むようになったと、茉莉は感じていた。

翌日の土曜日、茉莉は目覚めと同時にリビングに向かい、ナギに声をかけた。

「ナギちゃん、おはよう。よく眠れたかな?」

ナギはケージの中のベッドで横になっていた。普段ならすぐにこちらに近寄ってくるのだが、この日に限ってまったく反応を見せなかった。違和感を覚えた茉莉はナギをゆっくりと抱き寄せた。しかし、ナギはぴくりとも反応しない。

「ナギ? どうかしたの?」

茉莉の声にナギは何も反応しない。その瞬間、茉莉はナギに何かあったんだと分かった。

●浪費癖のある夫・稜人が突然言い出した子猫との暮らしに、不安を抱きながらも賛成した茉莉。迎えた子猫・ナギに稜人は夢中になり、心配していた世話にも積極的な姿を見せていた。ある朝、まったく反応しないナギの姿に茉莉は異変を感じる…… 後編【「様子がおかしいの!」迎えたばかりの子猫が突然ぐったり…浪費癖の夫に突きつけられた“現実”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。