「自分の教育方針が間違っていた」
事態が収拾するまでそれほど時間はかからなかった。その後すぐ、永山邦明の妻、永山恵子から連絡があり、事情の説明と謝罪を受けた。
恵子によると、永山邦明の奇行は、永山家の長男とのトラブルが原因だという。
「うちの人は、もともと教育熱心で、長男が小さい頃から塾に行かせて、いい大学に行かせようとしていたんです。でも長男はそれが嫌だったみたいで、大学を出て自立したあとは、連絡もよこさなくなってしまって、ほぼ絶縁状態なんです。『自分の教育方針が間違っていた』って、夫はすごく後悔していたんですよ」
そう語る恵子は目にうっすら涙をにじませていた。
「だからって、私に怒鳴られても……」
思わずそう呟いた下村弘和に、恵子が深く頭を下げる。
「本当に申し訳ございません。二度としないように強く言いますので……」
下村弘和は納得した。ここまで事態が悪化したのは、自分が永山邦明に対し真っ向から反論し、挑発したせいでもあった。永山邦明の背景に悲しい事情があると知ると、自分の対応が急に恥ずかしく感じはじめたのだった。
「今回は自分の態度を反省したよ」
永山恵子が帰ったあと、下村弘和は妻・円佳に言った。
「あなたは悪くないわよ。向こうが感情的になったのが問題なだけで」
「いや、でも、もうちょっと人の話を聞いてもいいと思った」弘和は言った。
「それはそうね。わたしも、塾ばかり行かせているのは良くないのかもって思った。たまには友梨の話を聞いて、遊びに連れていったりしましょ」円佳もそう言って同意した。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
