「自分が全部悪いんだと思います」

安村さんとお会いしてから数年たった。先日、事務所のドアを開けた瞬間背後から声をかけられた。

「ご無沙汰しております」

聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこには手土産らしき袋を手にした精悍な顔つきの男がいた。そう、あの安村さんだ。私は驚いて急ぎ彼を事務所に招き入れ話を聞いた。その後彼は相続自体を放棄し、妹とも縁を切って暮らしているらしい。

風のうわさに聞くところによれば既に実家は取り壊されてなくなっており、妹も生活保護を受けながら元実家付近のアパートで一人暮らしをしているようだ。

「妹が何とかしてくれている。そう信じて何もしなかった自分が全部悪いんだと思います」

一通り私と話をした後に彼は、過去を振り返りそう語る。

読者諸兄の中にも介護など含めて実家の面倒ごとを長年特定の兄弟姉妹に任せきっている人がいないだろうか。

「家族だから信頼できる」と思っていると、思わぬトラブルに巻き込まれることもある。

「いざとなれば土地や家がある」と思っていても、実際に資産価値を計算してみると予想外に低いことも珍しくはない。

少しでも不安に思われた方は、ぜひ一度実家に戻って様子を見てあげてほしい。可能であれば、介護を担う兄弟姉妹を気遣い、手伝ってあげてほしい。

そういった少しの気遣いによって家族の絆と財産を守ることができるかもしれないのだから。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。