本音を打ち明ける美穂

デートの次の日に翔太から電話がきた。

「昨日はありがとうね」

「ううん、それは私のセリフだよ」

少しためらうような間があり、翔太が質問をしてきた。

「……昨日はあんまり楽しめなかった?」

翔太はやはり気付いていたようだった。

こうして見抜かれていた以上、正直に伝えるべきだろうと思った。ここではぐらかすのは2人のためにならないし、なにより翔太に失礼だ。

「……翔太がやってくれたのは嬉しかったよ。でもやっぱり私は雰囲気の良いお店とか、プレゼントをもらったりとかしてもはしゃいだりできなくて。高かったんじゃないかなとか、無理してないかなとか、気になっちゃうし」

「……俺はでも美穂を楽しませたかっただけだよ。そのためなら別にお金なんて」

素直な気持ちなんだろうなと思った。そこまで思ってくれることが嬉しかった。

ただ高価なものをもらうことにも、高そうな店に行くことにも、美穂は喜びを見いだせなかった。なんてことない時間を下らない世間話なんかをして2人で過ごせることが美穂にとって喜びだった。

翔太が与えたい幸せと自分が欲している幸せは大きく離れている。ずっと気づかないふりをしてきたことを、美穂は今になって改めて思い知らされていた。これはわがままなのだろうか?

「……ごめんね。目をそらしてたけど翔太といるとき、ちょっと無理をしてた。翔太が選ぶ店ね、私はあんまり好きじゃなかったんだ。翔太といるのは楽しかったんだけど、今回だけじゃなくてもうずっとね……」

「……そうなの?ずっと無理をしてたってこと……?」

落ち込む翔太の言葉に胸が痛む。それでも伝えないといけないと思い、言葉を続けた。

「ごめんね。でも本当にそうなんだ。翔太が嬉しそうにしてるからそれでいいと思ったけどやっぱり私はちょっと疲れるよ」

2人はしばらくのあいだ黙り込んだ。沈黙を破ったのは翔太だった。

「……辛いのなら一緒にいないほうがいいね」

どこか自棄になったような言い方だった。

美穂が頷くと、2人の関係はあっさりと終わった。きっと翔太のほうだって腹が立っただろう。良かれと思ってやったことを否定されたのだから。

切れた電話を握りしめたまま、美穂はしばらく動くことができなかった。しかしやがて美穂は大きく伸びをして財布と携帯を持って家を飛び出した。

こんなときは飲んでないとやってられない。都合のいいやつと麻紀さんは少しだけむくれるかもしれないけれど、慰めてほしかった。あるいはわがままだと叱ってほしかった。

美穂は麻紀がいることを願いつつ、いつもの店へと向かっていった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。