喜べない贈り物

美穂たちはそれから別の階にあるバーに入り、翔太がおすすめだという小さなカクテルを注文する。翔太は車だったのでジンジャーエールを頼んだ。

この店もまたおしゃれなジャズだかクラシックだかかかっていて、客も店員もとても静かだった。

「今日はありがとう。とっても楽しかったよ。あとこんなタイミングで悪いんだけどプレゼントを用意してたんだ。そういうのはいいよって、美穂は言ってたけど、やっぱり2人で過ごす初めてのクリスマスだから」

マンションまで送ってくれた翔太は、後部座席に手を伸ばして小さな袋を渡してきた。プレゼントの話題を翔太が出した瞬間に美穂は喜びよりも自分が準備をしてなかったことの後悔が大きかった。

「……ごめんなさい。私、プレゼントを用意してなくて」

「え? あ、いやいやそういうのは全然いいんだよ。今日は美穂と一緒の時間を過ごせただけで俺は嬉しかったから」

翔太は笑って許してくれた。

家に帰った美穂はプレゼントを開けた。翔太がくれたのはゴールドのブレスレットだった。好みのデザインではあるものの、仕事につけていくにはやや派手で、なによりとても高そうで申し訳ないなという気持ちが先にきてしまった。

レストランも、バーも、プレゼントも――。どれも翔太が美穂のことを思ってしてくれたことだ。それは分かっているのに、喉の奥に刺さった小骨がなかなか抜けてくれないような、ピースをなくしたパズルのような、座りの悪さが美穂の心に広がっていた。