義母がまだまだ食い下がる

雨漏りの話なら少し前から春枝はしていた。大丈夫かとこちらから聞いたら問題ないと笑っていたはずだ。なのに今は困っていると訴えている。

「それと夫のベッドも介護用に変えてあげたいのよ。さすがに毎日起こしてあげるのが大変でね。そんなに高い買い物でもないしどう?」

春枝は無邪気な様子でこちらに聞いてくる。

「いやでも、それはですね……」

「3000万も当たったんでしょ? だったら少しくらい使ってくれてもいいじゃない? ねえ?」

軽いお願いのような口調に怒りを覚えた。

確かに3000万に比べたら安いものなのかもしれない。しかし高い買い物であることには変わりはない。

「……ちょっと泰さんと相談させてください」

光子は無理矢理この話を終わらせようとした。しかし春枝が粘ってくる。

「ベッドだけでもいいから今すぐに買わせてよ。ほんとに毎日しんどいのよ」

「別にお義父さんの状態って前から変わってませんよね? いきなりそんなお願いされても困りますよ」

光子はいらだってしまい、つい言い返してしまった。

「……いやそれはそうだけど」

「当選金は私たちの将来の蓄えとして使いたいと思っています。ですのであまり無駄遣いはしたくないんですよ」

すると春枝がこちらをにらみつけてきた。

「……私たちのために使うのは無駄だってことね」

それだけ言い残すと春枝はすぐに立ち上がって玄関に向かう。光子は一応見送りに向かったが2人の間には一切会話はなかった。春枝が開けた玄関がゆっくりと閉まっていくのを光子は立ち止まって見つめる。どう対応するのが正しかったのだろうかと、光子はため息をついた。

●3000万円の宝くじに当選した光子。夫・泰が義母・春枝に秘密を漏らしたことで、リフォームやベッド購入を求められ、関係が悪化してしまう。後編【「少しだけでいいから私たちのことも考えて」しつこく高額当選金をせびる義母に対して、思いついた"考え"とは】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。